短編集
(温もり)
俺は、無意識に装置を作動させる。
逃げた…
理解できない感情に、恐れと不安…つぶされそうな心。
「…き、おい!」
【びくっ】
少し大きな声と、揺さぶる手に体が硬直する。
視線を向けると…
困ったような顔で見ている弟…成哉(なりや)
「どうしてここに…」
周りを見渡すと、以前に住んでいた朱莉沙の家の地下。
「どうしてじゃないよ。装置が共鳴するから、おかしいと思って来たんだ…何をしてるんだよ。俺の邪魔をするつもり?」
しょうがないなぁと…ため息で呟き、俺の隣に座る。
「…ごめん…」
どう説明していいのか分からず…それでも、重い口を開く。
「成哉、俺達は…俺は、この星の人達とは違うのか?」
成哉は、俺の肩に寄り掛かり苦笑。
「あぁ、当たり前だろうね。けど…そんなの、俺には関係ない話だぜ。欲しいのは標本の愛情。俺は、桐沙に愛情を与える。そして、必ず…得てみせる。彼女からの、愛情を…」
成哉は、そう言いながらも…どこか、俺と同じ悩みを持っているようだった。
「…愛情が分からない。この、苦しみも…愛情だろうか?辛い…締め付けるような胸の痛み。理解してあげることのできない自分への苛立ち…」
胸の辺りの服を握り締める手が震える。
「俺と、兄貴は違う…星も違うんだ。理解できなくて当然…それでも、愛情を願う。なのに、桐沙との距離は縮まらない。」
矛盾する状況…何が原因かさえ、分からない。
問題解決への糸口も見つからず…それでも、狂うように求める愛情。
得ている…少なからず、俺は朱莉沙から。
成哉も、相手から愛情を受けているに違いない。
…きっと…そうだと、信じたい。
「成哉、俺は…」
言葉が続かない俺に、成哉は理解したように微笑んだ。
「兄貴、帰れ…愛の巣があるんだ。博士の願うのが何なのか、俺は知らない。俺達に、この星の法は通用しない。それでも、区切った何かに…俺達の環境は異なるんだ。」
朱莉沙と桐沙の性格の違い…博士は、何を見ているのだろうか。
…帰る場所…朱莉沙の元へ。軽
くなったような気分…その中に不安を残しつつ…
装置を使わず、歩き…公共の乗り物に揺られ…周りを見る。
この星の人々…違う環境…朱莉沙の願うものは、何だろう?
俺の愛情…注ぐキスに、心は満たされる。
与えるんじゃなく、俺が得ていただけ?
俺は、朱莉沙の愛情を求めながら、俺の愛情を注いではいない…
苦しい。
理解できない感情に狂いそうだ…
家に着く。
ドアの前、とって に手を伸ばすが躊躇する。
【ガチャッ】
【ガンッ】
勢いよくドアが開き、俺の頭に直撃。
痛みより、一瞬…どこかへ意識が飛んだ。
「大丈夫?!孝彬が帰ってこないから…私…。ごめんね…」
朱莉沙は視線を逸らし、どうして良いのか…戸惑っているように見える。