短編集
「入ろう?俺達の家に…中で話し合おう…今までの事、そして将来の事を。」
震える手を一度、握り締め…開いて、朱莉沙の肩を引き寄せる。
歩調を合わせ、家の中に入る。
テーブルには、俺の好きな物ばかり。
「…怒ったのかと…謝りたくて。その…私、分からないことが多いし…訊くタイミングを失ってた。」
時間…その感覚さえ、異なるのだろうか?
共に過ごす時間も…同じではない…
「朱莉沙、何でも訊いていい。答えるから。だから、お願い…俺に愛情を頂戴?…愛して欲しいんだ…」
抱きしめる手に、力が入らない。
震える…情けない…
「孝彬、あなたの求める愛情は…私と同じなの?」
同じなのか…?
「俺の求める愛情…朱莉沙、俺…欲しいと願う。朱莉沙を…すべて…どこまでなのか、線の引けない奥深いところまで。知りたいんだ…理解できない痛みも、癒されるような温もりも…」
「…それは、私を標本と呼ぶのと、どこまで関係するの?」
…どこまで…言葉に出来ない。
もどかしい…
「じゃあ…朱莉沙の求めるのは、何?俺に、何を求める?」
俺達の生活は、始まったばかり…
過ごした数日は、あっと言う間で…意味がなかったわけじゃない。
それでも、問題がなかったわけでもない。
表面には出ない…内面の重要な欠陥。
足りない愛情…埋まらない溝…
「朱莉沙、俺は君を妻に決めたんだ…」
「お父さんが、勝手に決めたんでしょう?」
「一か月、君の家の地下で暮らし…君たちを見ていた。」
そう…朱莉沙と妹の桐沙を。
そして、選んだ…二択だったけど…他に選択がなかったわけじゃない。
それでも、魅力的な女性として惹かれたんだ。
「標本って、何?」
標本…
「俺の、観察対象…愛しき存在…」
「分からない。理解できない…それは、産まれた星が違うから?あなたに惹かれた…語る知識と、その姿…初めての感情。勉強が楽しくて、皆のように恋愛を楽しむことは無かった。不器用で、一つにしか融通が利かない…こんなに、取り乱すことも…正常な判断が出来ない状況も無かった。どうすればいい?」
どうすればいいか…?
「朱莉沙、俺も分からない。それは、星が違うからか…俺だからなのか。朱莉沙、俺の気持ちは…君だけが愛しい。それに偽りはない…今は、それじゃダメだろうか?」
そっと、涙を零す彼女を抱きしめる。
「柔らかい…女性は、みんなそうなの?」
「男の人と違うわ…みんなと同じ。」
「そっか…。でも、触れたいと思うのは…朱莉沙だけだよ?」
俺の言葉に、嬉しそうに微笑む。
【きゅん】
胸に苦しいような、くすぐったいような…言い表せない感情。
「朱莉沙…キス、してもいい?」
彼女の頬に、手を添え…顔を近づける。
返事は無い。けど、視線や態度は拒絶を示さない。
【ドキドキ…】