短編集

脈打つ音が、自分に大きく聞こえる。
目を閉じ気味に、顔をもっと近くに持って行く。

朱莉沙の目が伏せ気味に、俺を見つめたまま…
触れそうな距離…彼女が目を閉じた。

【どくっん…】

急かすような衝動…
柔らかさを感じる程度で、そっと唇に触れた。

息の詰まる思いに、唇から離れる…
朱莉沙が目を開け、笑顔。

愛しい…どうしたら、手に入るんだろう?
力任せにすれば、壊れてしまいそうな身体…触れるのを戸惑う。

「孝彬?」

また、不安の表情…クルクル変化する表情に、一喜一憂。
戸惑い、幸せを感じ…深い闇を手さぐりで、光だと信じた物にも疑心暗鬼。

簡単に唇に触れ、感情の促すまま…
それでも…彼女の拒絶はなかった……

「朱莉沙、俺の事…嫌いじゃない?」

「嫌いだったら、ここにはいない。あなたの考えを、知りたいとも思わない。でも、不安なの…言い表せない感情が私を苦しめる。」

触れたい…思いきり、彼女の存在を実感するように。
でも…

「朱莉沙、触れるのが怖い…今まで俺は、どうしていた?」

手が震える…簡単に壊れるんじゃないだろうか?
壊してしまう…きっと、傷つける。

涙を零し、俺を見てくれないかもしれない。
怖い…冷たいような恐怖に、囚われる!!

「孝彬…、私に触れるのが怖い?今まで触れていたのは、無意識なの?」

朱莉沙は、俺の両腕を捕まえ必死で問う。
それに答える…

「…怖い…君の身体は、柔く…壊してしまいそうだ。今まで…?無意識じゃない。ただ、博士の情報の通り…自分で、考えたわけじゃない。増えた俺の情報。朱莉沙の気持ちや、俺の気持ちさえ…今は、すべてに頭がついていかない…戸惑いと不安…怖いんだ。」

泣きそうになる…情けなさと、もどかしさ…
こんな俺を、朱莉沙は どう思っただろうか。

「孝彬…私の心が反応する…あなたの愛情を、初めて身近に感じた。嬉しい…ありがとう。」

【ちゅ…】
『愛情を注げば、愛情は増え…返ってくるのです』

朱莉沙からの、初めてのキス…
受けた愛情に、想いは膨らんで……


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