短編集
柔らかさと温もりだけじゃない。
スベスベの肌が、指や手のひらに伝えた感触が残ったまま。
ゾクリッ…身体を走る不思議な感覚。
はぁ…息が詰まる。
「朱莉沙、起きて…。ね?俺、どうしたらいい?このまま、君が意識のないまま触れてもいいのかな?キスしたい…きっと、今なら…愛情を注げると思うんだ。」
返事は無く、安心したようにベッドで隣に寝ている…
朱莉沙は眠ったまま微笑んだ。
【きゅん】
心臓が掴まれたように、息苦しさが襲う。
寝ている彼女に、愛情を注いだとしても…彼女の認識しない愛情は、どこへ行くのだろう?
お互いが理解できないのでは、愛情は育たない…きっと、すれ違った想いの原因…
朱莉沙の肌に触れた手を移動させる。
温もりと柔らかさの感覚を覚えたのは、一瞬で…寂しさと残念に思う感情が悲しくさせる。
それを補うように、両手で朱莉沙の頬を撫でる。
「…ん。孝彬…」
起きるのかな?
触れるのが、俺だと…朱莉沙の中では当然なのかな。
それが嬉しくて、急かすような想いに戸惑う。
「朱莉沙、起きて…ね?キスをしよう。俺の愛情…受けてよ。感じて…伝えきらない想いを、受けて欲しい」
額や頬にキスを落とし、朱莉沙を起こすように囁く。
「…ふふ。くすぐったい…」
俺の手に、重なるように両手が優しく包む。
そっと、夢うつつ…朱莉沙の目が、ゆっくりと開いていく。
俺の視線を受け、笑顔を向けた。
そっと重ねるように、軽いキスを唇に落とす。
唇から離れ、見つめる俺に…朱莉沙は見開いた目…
え?
「…っ!!」
状況を把握するように、挙動不審な動き。
顔を真っ赤に、俺から離れて布団を被った。
「ごめん!!違うっの…違…昨日、孝彬、寝ちゃって…私も、そのまま!!」
可愛い…愛しさに狂いそうになる。
慌てる朱莉沙を、布団ごと抱きしめた。
「朱莉沙…俺、キスをしたいんだ。ね?時間を頂戴…俺以外の事を、忘れてよ。お願い…」
抱き寄せた朱莉沙は、動きを止めて俺に体重をかける。
「うん。一緒に時間を過ごそう…布団を退けるわ。あなたの顔が見えないから…」
ベッドの上に、座った状態で向かい合い…まるで、それは…
「朱莉沙、触れても…いい?」
「えぇ。触れて…私は、あなたの花嫁…」