短編集
(観察対象)
学校への足取りを軽やかに、自分の表情など意識せず…
「おい、兄貴!俺の評価を下げるような、ゆるんだ顔をするなよ。」
あきれたように、ため息まじりで成哉が言葉を吐き出した。
「え、ゆるんでる?へへっ…自分の表情なんか、分かるかよ。成哉、俺…くふふっ…」
嬉しさが込み上げ、幸せの絶頂。
「けっ…悠長なもんだぜ。ふう…星から、連絡があった」
成哉は、いつもと違った表情…
困惑と、悲しみの伴ったような…複雑な。
それは、相手との関係を表していた…
それも気になるが、星からの連絡。
「連絡?俺達の報告を、待っていたんじゃないのか?」
嫌な予感がする…
「帰還命令が出た。」
この星から…帰る?
ここでの生活が…終わる?朱莉沙との生活は…
俺の不安が、一気に思考を覆う。
「兄貴…俺達の観察対象は、帰還に同行しても良いと許可が出た。…相手の承諾さえ、あれば…」
相手の承諾?
…朱莉沙が、俺と共に…この星を出ることを望んでくれれば…?
愛情は、育ち始めたばかり…
「俺の恋人は、俺の愛情を疑う…キスを拒み、触れる事さえ嫌う。…俺は、この星から逃げるんだろうか?…星からは、一定期間を与えられた。兄貴は、話し合えばいい…。」
成哉は言いたい事だけを告げ、移動装置を発動させた。
星の違い…想いは複雑で、すれ違い…近くにいるのに、距離は縮まらない…
星が違う…環境も…この星で、やっと近づけた想い。
崩れる…朱莉沙は、俺を選んでくれないかもしれない…
きっと、選ばない。
この生まれた星に、二度と戻れないだろう。
成哉の反応から…君の妹は、この星に留まるのだろう。
父親である博士も、この地にいる…
君の望んだ未来は、この星でのこと…夢や将来……
通った想い…得た温もりや愛情…すべてを失って、俺だけが星に帰る?
元の生活に戻ることなど、出来ない…
得てしまったものの大きさに、喪失感は…どれほど俺を苦しめるだろうか?
朱莉沙…俺達の時間は、何だった?
注いだ愛情は消えるの?君から得た愛情は…観察対象を捨てる?
手放せる?……無理だ