短編集
(花嫁)
暗くした自分の部屋で、いつの間にか寝ていた。
「調子悪いの?いつも帰る時間より早いのに、孝彬の靴があるから…」
優しい声で、何の警戒心もなく…朱莉沙は俺に近づいた。
その手を、強引に引き寄せてベッドに導く。
「きゃっ…何、急に。…孝彬?」
薄暗い部屋…ベッドに転がった朱莉沙を覆い、抱きしめる。
少しの抵抗…でも、本気じゃない。
それが、嬉しくて…心をえぐるような痛み。
自分の行動を、止めようとする感情が苦しめる…
それしか、選択肢が無いと…急かされた想い。
すべてを奪って、君に触れれば…
「朱莉沙、無理にでも…抱きたい。どうせ、俺のものにならないなら…奪うしかない。恨んでも良い…」
手は、触れたいと願った柔らかい部分に遠慮も戸惑いもなく触れる。
優しさも、味わうことも無視して…必死で求める。
きっと、朱莉沙の愛情を覆すに違いない…
なのに…強引な俺の欲望のまま触れる手に、君の抵抗はなかった。
震えも、泣き崩れることも…静かな時間……
どこか冷静な心は、逃げていたものに動く。
乱れた服…触れた身体が、俺の加えた力を受け入れたように柔らかさを露わにする。
白く、細い腕は上方に…手は布団を掴んで、握り締めていた。
視線を向けた俺に、涙を浮かべているのに笑顔…
【きゅんっ】
愛しい…
望まなかった。自分から、捨てようとした愛情…
乱暴で、自己防衛の俺の行動に示される愛……
「ふふっ…やっと、目が合った。恥ずかしい…初めてに、どうしていいのか分からない。孝彬…私は、あなたの求めに応えられているかな?」
自分の注いできた愛情…
その欠如を判断したのは自分…キスは、愛情を増やす?嘘だ…
違う。愛情を育てたのは、キスじゃない…
「…朱莉沙、キスをしてもいい?」
「ん。愛情を頂戴…私も、愛情を返すから…受けて、離さないで…私は、あなたの花嫁。」
「…頂戴。離さない…すべてを奪う。君から…俺のものだ。俺の標本…閉じ込めて、俺だけの世界に連れて行く。着いて来てくれる?」
朱莉沙の両手が、俺の頬を撫でる。
俺は顔を近づけ、優しくキスを落とした。
甘い…
愛しさに包まれ、俺は手に入れた。
花嫁の標本…君は、俺のキスで愛情を増やす?
俺は、君へのキスで愛情を増やす。
君を観察し、君に触れ…想いを重ねて、積み上げ…
これからも、君は…俺の花嫁の標本……
「地球人は愛情を、キスで増やすと聞いた。俺のキスで落ちればいい…俺の花嫁。研究対象の標本…俺の子を産んで?」
取説『強引に、身体に触れてはいけません。奪われると感じたら、愛情は拒絶します。…しかし、時には強引に行かないと、手に入りませんよ♪愛情は、受け取る側の感情も関係しますからね。二人の培った愛情を信じれば、道は開かれるのかも?それは、取説に書けない未知数…二人の幸せを、ただ…願い…』
END