短編集
味わい
次の日の放課後。
彼女から、俺が誤解したことを説明すると言われ、向かった先は。
最近の見回り重点エリアから外れた場所。
以前と同様、人の目が届かず静かだ。
エリアから一時的に外したのは彼女なのかもしれない。
「お前、風紀委員だよな。どういうことだ、会長から今回が最後だと言われて来たのに。お前の仕業なのか?」
髪色や服装が落ち着いた一色 敦(いっしき あつし)。
言葉遣いは荒いまま。俺の胸座を掴んで、鋭い視線。
俺も納得したわけじゃない。
彼女への気持ちを自覚したのだから、お前に取られるのは嫌だ。
彼女はコイツとの関係を終わらせると決めてくれたのに。
「一色、彼女との関係は終わりだ。諦めろ。」
掴んだ手を振り払う。
「ふざけんな!」
一体、どういう関係だったのか。
俺は怒りで我を忘れたような一色を見つめ、どこか冷静になる。
彼女は一色と、風紀を乱すような関係とは少し違うと言っていたけれど。
気になるのは『少し』という表現。
一色の身体で見えなかったけれど、いつから居たのだろうか。
「はい、そこまでよ!」
彼女の声と同時。
一色の横から何かが飛んできたように見えたかと思えば、呆気なく巨体が吹っ飛ぶ。
見えた久留主は後姿で、髪やスカートの裾を撫でていた。
え?
今、一体何が起こったんだ。
「会長、もう一発。頼む。」
地面に倒れた一色が悶えつつ、彼女に手を伸ばした。
確かに風紀を乱すかもしれない。
けれど結果、一色は真面目(?)になった。
目の前の状況を見ながら、感情や時間の感覚もなく。
ただ、あの言葉を思い出した。
『生徒会長に頼めば、スゴイ経験が出来るぜ。だけど。お前には理解できないだろうな、あの快感は。』
多分、回し蹴りか。
高さもあったから、飛びも含んでの攻撃なのだろうか。
ふふ。強いんだね、生徒会長様は。
あは。粛清とかいうやつか?
遠い目をしていた俺に久留主は近づいて来て、勢いよく手を掴む。
そしてアイツを蹴り飛ばしたとは思えない程、とても弱い力で俺を引いた。
表情は見えないけれど、歩き続ける彼女が導くまま付いて行く。
声を掛けようかと迷ったけれど、結局は何と言って良いか分からなかった。
触れている手は柔らかく、伝わるのは少しの熱。
彼女の長い髪が揺れ、漂う甘い香り。
俺は足を止めた。
急な抵抗に、彼女の歩行も停止。
振り返った彼女の顔は真っ赤で、それを見た俺の心は激震。
「……私の家、誰もいないの。来て欲しい。」
耳に入ったのは擦れる様な小さな声で、彼女の緊張が読み取れるようだった。
「いいよ、今から君を抱くから。リクエストはあるかな?」
調子に乗った事を後悔しても遅く、出てしまった言葉は取り消せない。
「ふふ。私の愛が欲しければ、買いに行けばいいわ。」
彼女は俺の言葉に、口もとだけの笑みを見せる。
「どこで売ってるの。」
目が笑っていない。
「さぁ?それは、あなたが探せばいい事よ。」
俺はため息。
そして笑顔で答える。
「では、内密は暴きます。」
END