レオナード王子の好きな人
茶会が開かれている会場に友人たちと談笑するオリヴィアの姿がある。誰よりも可愛くて美しく、彼女だけが光り輝いている。
「僕のオリヴィアは今日も可愛いなぁ。」
レオナードが窓の外を眺めていると、黒い装束を着た男が音もなく現れた。
「今週のリストをお待ちしました。」
「ありがとう、サミュエル。」
レオナードはサミュエルから受け取った紙の束をめくり、名前を確認していった。
「こいつは誰?3回もオリヴィアに話しかけてる。」
「使用人です。」
「3回だよ?多くない?」
「ご令嬢の給仕をしておりましたから仕方ないかと……」
「そっかぁ〜」
レオナードは眉間に皺を寄せて納得いかない顔をしながらも、続きを確認していった。
「こいつとこいつはだめだ。」
レオナードは羽ペンを手に取ると、2人男の名前に突き刺した。インクがじんわりと滲んでいく。
「承知しました。」
窓の外に目を向けると、オリヴィアは伯爵の息子エリオと話していた。
「あいつもだな。でも、目立たないようにね。伯爵の息子だから。」
「はい。」
レオナードは立ち上がって庭園へ向かった。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
「オリヴィア?」
茶会にレオナードが現れると、参加者たちは自然と距離を取り、頭を下げた。
「僕とも話してよ。」
「もちろんです!」
オリヴィアは弾けるような笑みを向けた。レオナードはオリヴィアの髪を撫でて慈しむように微笑みかけた。
「もう少し待っててね。必ず君を僕のお嫁さんにするから。」
「レオナード様、そのお話は……」
「僕のお嫁さんは嫌なの?」
「いいえ。でも、レオナード様にご迷惑をおかけしてしまいます。」
「僕のお嫁さんは君だけ。何があっても君と結婚する。」
オリヴィアの父は、金を着服した罪で城に拘留されている。オリヴィアはそんな自分がレオナードの相手になっていいのかと気にしていた。
「父上のことは心配しなくていい。」
レオナードはオリヴィアの耳元で囁いて颯爽と会場を後にした。部屋にはサミュエルが控えていた。
「もう終わったの?」
「はい。」
「仕事が早いなぁ、サミュエルは。」
レオナードは再び窓の外に目をやった。オリヴィアに話しかける男の姿はない。
「オリヴィアの父上の状況は?」
「新たな報告は入っておりません。」
オリヴィアの父が捕まったのは突然だった。不思議に思って調べると、オリヴィアの父は濡れ衣を着せられただけだった。だからすぐに釈放されてもおかしくないのに、今だに拘留され続けている。
「誰か邪魔してるのかなぁ?」
レオナードは机の上に重ねられている紙の束を手に取った。
窓の外では、オリヴィアが友人らと共に庭園を去って行くのが見えた。茶会が終わったようだ。
「終わったよ、サミュエル。」
「はい。」
サミュエルは音もなく部屋を出ていった。
茶会の帰り道、エリオは事故に遭い、1週間の入院を余儀なくされた。
「こいつかぁ。」
レオナードの視線は書類に書かれた1人の人物の名前に注がれている。
「邪魔する奴は全員排除する。オリヴィアは僕の物なんだから。」
月明かりが差し込む部屋で、レオナードは人物の名前をぐるぐると円で囲っていた。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
夜会の会場で、オリヴィアは客人たちの足元を熱心に見ていた。
「どこに落としちゃったんだろう。」
オリヴィアはよく物を失くす。つい先日はイヤリングを失くしたばかりだった。
「もしかして庭園に……?」
茶会の時に落としたのかもしれない。オリヴィアは庭園へ走って行った。
しかし、庭園を探しても、ハンカチは見つからない。マーガレットの刺繍が入った白いハンカチはお気に入りだった。
「オリヴィア様、何かお探しですか?」
給仕の格好をした男性が声をかけてきた。オリヴィアの顔はぱっと明るくなった。先ほど庭園にいたこの男性なら、ハンカチを見ているかもしれない。
「先ほどハンカチを落としてしまったんです。マーガレットの刺繍がある白いハンカチなのですが、見かけませんでしたか?」
「この会場にはありませんでしたよ。」
「そうですか……」
失くしてしまったのは悲しいけれど、こんなに探しても見つからないなら諦めるしかない。肩を落としたオリヴィアの前に、男性は煌びやかな白い靴を差し出した。
「ハンカチの代わりにこちらをお受け取りください。」
「そんな……受け取れません!」
「殿下からの贈り物です。」
レオナードからの贈り物だと聞いたオリヴィアは目輝かせた。男性に促されて、オリヴィアは履いていたピンクの靴を脱いで白い靴に履き替えた。
「会場で殿下がお待ちですよ。」
「はい!」
白い靴に履き替えたオリヴィアは、夜会の会場へ戻って行った。
オリヴィアが残したピンクの靴を給仕の男性はそっと持ち上げた。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
社交的な笑顔を振りまいていたレオナードは、会場に戻ってきたオリヴィアを目に留めた。オリヴィアは一直線にこちらへやって来る。
「レオナード様、素敵な贈り物を……」
「見せて?」
「え……」
「僕にだけ見えるように。ほら、ドレスを持ち上げて?」
オリヴィアは言われた通り、ドレスの裾を持ち上げた。
「あぁ、すごく綺麗だ……」
レオナードは跪いてそっと靴を撫でた。見上げると、オリヴィアは顔を真っ赤にしていた。
「オリヴィア、踊ろうか。」
レオナードはオリヴィアの手を取ってフロアに進んだ。オリヴィアは人形のように固まっている。
「ごめんね。すごく似合っていたからさ。」
「ありがとうございます、レオナード様……」
レオナードはオリヴィアを抱き寄せて、耳元に顔を寄せた。
「父上の釈放が決まったよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。だから僕のところに来てね。」
レオナードはにこりと微笑んだ。ダンスを終えて商談相手のところへ向かうレオナードの後ろ姿を、オリヴィアはじっと見つめていた。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
暗い部屋の中、月明かりに照らされて片方だけのイヤリングが煌めきを放っている。レオナードの手にはマーガレットの刺繍がある白いハンカチが握られていた。
「オリヴィアぁ……」
ハンカチを口に当てると、ほのかに花の香りがする。レオナードはハンカチで口を押さえて、何度も息を吸いこんだ。
キラキラと輝くイヤリングの隣には、ピンクの靴が置いてある。レオナードはハンカチを丁寧に折りたたむと、ピンクの靴を手に取った。
「あと少し……あと少しで僕の物になるんだね……」
靴を抱き寄せるとオリヴィアの体温を感じるような気がして、ダンスをした時の肌の感触が思い出された。
優しく全体を撫でまわしていると、心臓が痛いほどに音を立てる。つま先に施された装飾に触れたレオナードは息を荒くして唇を寄せた。
「あぁ、オリヴィア……君は僕の物だ……誰にも渡さないからね……」
レオナードは何度も口付けた。オリヴィアの残り香が鼻を伝って体の中に染み渡っていく。
「オリヴィア……愛してる……」
レオナードはオリヴィアの靴に舌を這わせて、一心不乱に舐め続けた。
「僕のオリヴィアは今日も可愛いなぁ。」
レオナードが窓の外を眺めていると、黒い装束を着た男が音もなく現れた。
「今週のリストをお待ちしました。」
「ありがとう、サミュエル。」
レオナードはサミュエルから受け取った紙の束をめくり、名前を確認していった。
「こいつは誰?3回もオリヴィアに話しかけてる。」
「使用人です。」
「3回だよ?多くない?」
「ご令嬢の給仕をしておりましたから仕方ないかと……」
「そっかぁ〜」
レオナードは眉間に皺を寄せて納得いかない顔をしながらも、続きを確認していった。
「こいつとこいつはだめだ。」
レオナードは羽ペンを手に取ると、2人男の名前に突き刺した。インクがじんわりと滲んでいく。
「承知しました。」
窓の外に目を向けると、オリヴィアは伯爵の息子エリオと話していた。
「あいつもだな。でも、目立たないようにね。伯爵の息子だから。」
「はい。」
レオナードは立ち上がって庭園へ向かった。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
「オリヴィア?」
茶会にレオナードが現れると、参加者たちは自然と距離を取り、頭を下げた。
「僕とも話してよ。」
「もちろんです!」
オリヴィアは弾けるような笑みを向けた。レオナードはオリヴィアの髪を撫でて慈しむように微笑みかけた。
「もう少し待っててね。必ず君を僕のお嫁さんにするから。」
「レオナード様、そのお話は……」
「僕のお嫁さんは嫌なの?」
「いいえ。でも、レオナード様にご迷惑をおかけしてしまいます。」
「僕のお嫁さんは君だけ。何があっても君と結婚する。」
オリヴィアの父は、金を着服した罪で城に拘留されている。オリヴィアはそんな自分がレオナードの相手になっていいのかと気にしていた。
「父上のことは心配しなくていい。」
レオナードはオリヴィアの耳元で囁いて颯爽と会場を後にした。部屋にはサミュエルが控えていた。
「もう終わったの?」
「はい。」
「仕事が早いなぁ、サミュエルは。」
レオナードは再び窓の外に目をやった。オリヴィアに話しかける男の姿はない。
「オリヴィアの父上の状況は?」
「新たな報告は入っておりません。」
オリヴィアの父が捕まったのは突然だった。不思議に思って調べると、オリヴィアの父は濡れ衣を着せられただけだった。だからすぐに釈放されてもおかしくないのに、今だに拘留され続けている。
「誰か邪魔してるのかなぁ?」
レオナードは机の上に重ねられている紙の束を手に取った。
窓の外では、オリヴィアが友人らと共に庭園を去って行くのが見えた。茶会が終わったようだ。
「終わったよ、サミュエル。」
「はい。」
サミュエルは音もなく部屋を出ていった。
茶会の帰り道、エリオは事故に遭い、1週間の入院を余儀なくされた。
「こいつかぁ。」
レオナードの視線は書類に書かれた1人の人物の名前に注がれている。
「邪魔する奴は全員排除する。オリヴィアは僕の物なんだから。」
月明かりが差し込む部屋で、レオナードは人物の名前をぐるぐると円で囲っていた。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
夜会の会場で、オリヴィアは客人たちの足元を熱心に見ていた。
「どこに落としちゃったんだろう。」
オリヴィアはよく物を失くす。つい先日はイヤリングを失くしたばかりだった。
「もしかして庭園に……?」
茶会の時に落としたのかもしれない。オリヴィアは庭園へ走って行った。
しかし、庭園を探しても、ハンカチは見つからない。マーガレットの刺繍が入った白いハンカチはお気に入りだった。
「オリヴィア様、何かお探しですか?」
給仕の格好をした男性が声をかけてきた。オリヴィアの顔はぱっと明るくなった。先ほど庭園にいたこの男性なら、ハンカチを見ているかもしれない。
「先ほどハンカチを落としてしまったんです。マーガレットの刺繍がある白いハンカチなのですが、見かけませんでしたか?」
「この会場にはありませんでしたよ。」
「そうですか……」
失くしてしまったのは悲しいけれど、こんなに探しても見つからないなら諦めるしかない。肩を落としたオリヴィアの前に、男性は煌びやかな白い靴を差し出した。
「ハンカチの代わりにこちらをお受け取りください。」
「そんな……受け取れません!」
「殿下からの贈り物です。」
レオナードからの贈り物だと聞いたオリヴィアは目輝かせた。男性に促されて、オリヴィアは履いていたピンクの靴を脱いで白い靴に履き替えた。
「会場で殿下がお待ちですよ。」
「はい!」
白い靴に履き替えたオリヴィアは、夜会の会場へ戻って行った。
オリヴィアが残したピンクの靴を給仕の男性はそっと持ち上げた。
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社交的な笑顔を振りまいていたレオナードは、会場に戻ってきたオリヴィアを目に留めた。オリヴィアは一直線にこちらへやって来る。
「レオナード様、素敵な贈り物を……」
「見せて?」
「え……」
「僕にだけ見えるように。ほら、ドレスを持ち上げて?」
オリヴィアは言われた通り、ドレスの裾を持ち上げた。
「あぁ、すごく綺麗だ……」
レオナードは跪いてそっと靴を撫でた。見上げると、オリヴィアは顔を真っ赤にしていた。
「オリヴィア、踊ろうか。」
レオナードはオリヴィアの手を取ってフロアに進んだ。オリヴィアは人形のように固まっている。
「ごめんね。すごく似合っていたからさ。」
「ありがとうございます、レオナード様……」
レオナードはオリヴィアを抱き寄せて、耳元に顔を寄せた。
「父上の釈放が決まったよ。」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。だから僕のところに来てね。」
レオナードはにこりと微笑んだ。ダンスを終えて商談相手のところへ向かうレオナードの後ろ姿を、オリヴィアはじっと見つめていた。
˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚˙༓࿇༓˙˚
暗い部屋の中、月明かりに照らされて片方だけのイヤリングが煌めきを放っている。レオナードの手にはマーガレットの刺繍がある白いハンカチが握られていた。
「オリヴィアぁ……」
ハンカチを口に当てると、ほのかに花の香りがする。レオナードはハンカチで口を押さえて、何度も息を吸いこんだ。
キラキラと輝くイヤリングの隣には、ピンクの靴が置いてある。レオナードはハンカチを丁寧に折りたたむと、ピンクの靴を手に取った。
「あと少し……あと少しで僕の物になるんだね……」
靴を抱き寄せるとオリヴィアの体温を感じるような気がして、ダンスをした時の肌の感触が思い出された。
優しく全体を撫でまわしていると、心臓が痛いほどに音を立てる。つま先に施された装飾に触れたレオナードは息を荒くして唇を寄せた。
「あぁ、オリヴィア……君は僕の物だ……誰にも渡さないからね……」
レオナードは何度も口付けた。オリヴィアの残り香が鼻を伝って体の中に染み渡っていく。
「オリヴィア……愛してる……」
レオナードはオリヴィアの靴に舌を這わせて、一心不乱に舐め続けた。