【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
1.
「え? 婚約破棄……?」
つぶやきながら、心臓がドクンドクンと大きく鳴る。どうしていきなり? って思ったけど、どうやら驚いているのは私だけらしい。私の隣に座っているお父様も、お母様も、落ち着き払っているんだもの。
「オウレディア殿下には大変申し訳なく思っています」
と、目の前の壮年男性が頭を下げる。私の婚約者――メレディスの父親だ。彼の隣にはメレディスの母親が座っていて、嗚咽を漏らしながらハンカチに顔を埋めている。
「頭を上げて。本件については父と母も事前に承知しているみたいだし……理由を聞かせてくれる?」
そもそも、肝心の婚約者本人が不在なのはどういう了見だろう? 私はメレディスの父親をじっと見つめる。
「実は――随分前から息子が気に病んでいたのです。『もしもオウレディア殿下を死なせてしまったらどうしよう、と』」
「そ、れは……」
言いながら、反射的に自分の喉に手が伸びる。
私には生まれつき、喉に真っ赤な痣があった。魔女から受けた呪いの証だ。
『よくもわたくしを捨てたわね! あなたとあなたの子供に絶望を味わわせてあげる!』
父には母と結婚する前に、密かに交際をしていた女性がいた。その女性は強力な力を持つ魔女で、父との結婚が叶わなかった彼女は、私を身ごもっていた母にとある魔法をかけた。
『おまえ……妻にいったいなにを!?』
『その女にはなにもしていない。お腹の子に呪いをかけたんだ。十八歳になるまでの間に、その子のことを心から愛してくれる相手と結婚ができなければ死んでしまう――そういう呪いをね』
かくして、私は呪いの証として喉に痣を持って生まれてきた。
つぶやきながら、心臓がドクンドクンと大きく鳴る。どうしていきなり? って思ったけど、どうやら驚いているのは私だけらしい。私の隣に座っているお父様も、お母様も、落ち着き払っているんだもの。
「オウレディア殿下には大変申し訳なく思っています」
と、目の前の壮年男性が頭を下げる。私の婚約者――メレディスの父親だ。彼の隣にはメレディスの母親が座っていて、嗚咽を漏らしながらハンカチに顔を埋めている。
「頭を上げて。本件については父と母も事前に承知しているみたいだし……理由を聞かせてくれる?」
そもそも、肝心の婚約者本人が不在なのはどういう了見だろう? 私はメレディスの父親をじっと見つめる。
「実は――随分前から息子が気に病んでいたのです。『もしもオウレディア殿下を死なせてしまったらどうしよう、と』」
「そ、れは……」
言いながら、反射的に自分の喉に手が伸びる。
私には生まれつき、喉に真っ赤な痣があった。魔女から受けた呪いの証だ。
『よくもわたくしを捨てたわね! あなたとあなたの子供に絶望を味わわせてあげる!』
父には母と結婚する前に、密かに交際をしていた女性がいた。その女性は強力な力を持つ魔女で、父との結婚が叶わなかった彼女は、私を身ごもっていた母にとある魔法をかけた。
『おまえ……妻にいったいなにを!?』
『その女にはなにもしていない。お腹の子に呪いをかけたんだ。十八歳になるまでの間に、その子のことを心から愛してくれる相手と結婚ができなければ死んでしまう――そういう呪いをね』
かくして、私は呪いの証として喉に痣を持って生まれてきた。