【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「大丈夫ですよ、まだ慣れていないだけです。ね、ダニエル様」


 フィオナが笑いかけると、ダニエルはキャッキャッと声を上げて笑った。アシェルはそんなふたりの様子を見つめた後、そっと自身の口元を隠す。それから「だといいのだが」と口にした。


「せっかくの機会です。アシェル様、ダニエル様を抱っこしてくださいませんか?」

「え? だが、私は……」


 困ったように視線を彷徨わせるアシェルだが、表情はまんざらでもない。フィオナは目を細めつつ、アシェルとの距離をずいと詰めた。


「大丈夫です。わたしも隣で支えますから。こうして――おしりを腕で支えてあげるんです。ダニエル様の背中がアシェル様の体にそうようにして」

「こう、か?」


 おそらく、これがはじめての経験なのだろう。アシェルはビクビクしながらダニエルに手を伸ばす。
 ダニエルは少しだけ不安そうな表情を浮かべていたが、アシェルのぬくもりを確認すると、キャッキャッと声を上げた。


「まあ! ダニエル様、とっても嬉しそう! よかった! よかったですね、ダニエル様」


 フィオナがとても嬉しそうに笑う。すると、アシェルは目を見開き「かわいいな……」とつぶやく。


「そうなんです! 旦那様、ダニエル様は本当にかわいいんですよ!」

「――君のことだよ」


 フィオナに聞こえないようささやきつつ、アシェルは目元を和らげた。


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