【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
(かわいい服。この布も。この子が生まれる時期は寒いから、毛糸も買っておいたほうがいいわよね)


 数カ月後に会える我が子を思い浮かべながら、フィオナはそっと微笑んだ。着せてみたい服、一緒にやってみたいこと、行ってみたい場所がたくさんある。気が早いとわかっていても、それらを想像して準備をするのが心から楽しい。フィオナはもう一度、ゆっくりとお腹を撫でた。


「――やめてください」


 と、前方で言い合いをしている男女が目に入る。どうやら女性の方が男性に言い寄られているようだ。女性は見るからに嫌がっているし、黙って通り過ぎるのは忍びない。


「あの……」


 フィオナは意を決して男女に声を掛ける。男性はフィオナを見ると、チッと舌打ちをし、すぐにその場からいなくなった。


「助けてくださってありがとうございます! どうか、お礼をさせてください」


 女性はそう言って、フィオナの両手をギュッと握る。


「え? そんな……わたしはなにもしていませんわ」


 フィオナは本当に、少し声を掛けただけなのだ。お礼をしてもらうようなことは、何もしていないのだが。


「いいえ、それではわたくしの気が済みません。どうか、何かさせてください。……そうだわ、一緒にお茶などいかがでしょう?」

「え、お茶ですか? えぇと……そのぐらいなら」


 どうしてもと言われては断りづらい。フィオナは女性についていった。


< 2 / 263 >

この作品をシェア

pagetop