【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「申し訳ございません」


 アシェルの想いにこたえるわけにはいかない。フィオナは静かに首を横に振る。


「それはなぜ?」

「わたしは……一度離婚を経験しています。公爵夫人にふさわしくありません」


 言いながら、涙が込み上げてくる。
 本当は嬉しいと伝えられたなら――「はい」とこたえられたらよかったのに。そう思わずにはいられなかった。


「そんなこと、私はちっとも気にしないよ」


 アシェルがフィオナの手の甲に口付ける。慈愛に満ちた温かな瞳。彼はフィオナと出会ってから大きく変わった。その理由がフィオナにあるのは間違いないだろう。


「無理ですよ。だってわたしは、わたしには――アシェル様の子を生むことができませんから」

「え?」


 胸が引きちぎられそうなほどの痛みをこらえながら、フィオナはそっとアシェルを見上げる。

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