【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
 あの日のことを打ち明けるのは、フィオナにとってあまりにも辛いことだった。思い出したくない過去と、向き合いたくない未来。――けれど、アシェルがフィオナとの結婚を望んでいる以上、黙っているわけにはいかない。
 ひととおり事情を終えると、アシェルは「そうだったのか」とつぶやいた。


(本当に、どうしてこんなことになってしまったんだろう?)


 フィオナはお腹の子と夫を一度に失った。それだけでなく、他の誰か――アシェルと一緒になる未来まで奪われてしまった。あの時は、ハリー以外の誰かと結婚するなんて想像すらしていなかったけれど、フィオナにはそんな道はないのだと、現実を突きつけられたような気がする。


「――けれど、私はそれでも構わないよ」


 と、アシェルが言う。フィオナは「え?」と目を見開いた。


「夫婦として、君と共に生きていきたい。フィオナを愛しているんだ」


 力強いアシェルの言葉。フィオナの瞳から涙がこぼれ落ちる。アシェルはフィオナを力いっぱい抱きしめた。


「それに、私たちにはダニエルがいる。あの子は私の子供だ。……君がそう思わせてくれたんだ。だから、子供のことは気にしなくていい。私はフィオナと結婚したいんだ」


 込み上げてくる幸福感。フィオナはおずおずとアシェルのことを抱きしめ返す。


「わたしも、アシェル様のことが好きです」


 フィオナが言うと、アシェルは幸せそうに目を細めた。


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