【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「ひ、久しぶりだな」

「……そうね」


 気まずそうに微笑むハリー。フィオナはハリーの顔を直視できないまま、震える声で返事をする。「それじゃあ」とその場を去ろうとしたところで、グイッと腕を引っ張られた。


「なっ……」


 その瞬間、フィオナの胸が凍りつく。ストロベリーブロンドの女性――フィオナからすべてを奪った浮気相手が目の前でニコリと微笑んでいた。


「フィオナ様、お久しぶりです。わたくしのこと、覚えてます?」


 女性が無邪気に尋ねる。
 ――忘れられるはずがないのに。
 フィオナは眉間にシワを寄せ、女性から顔を背けた。


「わたくしたち、結婚したんですよ! ほら、見てください、この指輪」


 小さなダイヤモンドが埋め込まれた結婚指輪を見せつけながら、女性が首を傾げる。
 ハリーが「キャサリン、やめろ」と咎めるが、女性――キャサリンは「いいじゃない?」と笑みを浮かべた。


「フィオナ様のおかげで、わたくしは今、こんなに幸せになれたんですもの。感謝しなくちゃ、でしょう?」

「なんですって……? わたしのおかげで幸せになれた?」


 キャサリンの言葉に、フィオナは腸が煮えくり返りそうになる。


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