【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「そうですよ? わたくしの幸せはフィオナ様あってのものですから。とーっても感謝してるんです! ね、ハリー様」

「いや……その……」

(よくも……よくも!)


 フィオナの手のひらに爪が食い込む。本当は思い切り、殴り飛ばしてやりたかった。思うままに罵倒をして、辱めてやりたかった。フィオナが苦しんだ分だけ、苦しみを味わわせてやりたかった。――けれどそんなこと、フィオナにはできない。フィオナはギュッと唇を噛んだ。


「え、待って? 悪いのってわたくしなの? ……違うでしょう? ご自分の魅力が足りなくて、乗り換えられちゃっただけでしょう? それなのに、被害者ぶられるなんて心外だわ。大体、さっさとハリーと別れてくれていたらよかったのよ。それなのに、子供まで妊娠するから」


 クスクスとキャサリンが笑う。これ以上は耐えられない――そう思ったときだった。


「フィオナから離れろ」


 アシェルがふたりの間に割って入る。フィオナは目頭が熱くなった。


(アシェル様……)


 痛くて苦しくてたまらなかった心が軽くなる。フィオナはアシェルの腕にギュッと抱きついた。


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