【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「あら、どなた? あなたには関係ないでしょう?」

「なっ……! ジョルヴィア公爵!?」


 ハリーはアシェルの顔を確認すると、キャサリンの口を大急ぎで覆う。それから彼は深々と頭を下げ「ご無沙汰しております」と口にした。


「待って、ジョルヴィア公爵って、あの?」


 キャサリンが瞳を輝かせる。ハリーはキャサリンに「そうだ。だから口を慎んでくれ」と伝えたが、彼女はグイッと身を乗り出した。


「さすがはハリー様だわ! そんなすごい人とお知り合いだったなんて。……でも、待って。公爵様はどうして、フィオナ様の名前をお呼びになったの?」

「フィオナは私の妻だからね」


 アシェルが冷たく言い放つ。すると、キャサリンは「なっ!」と声を上げ、大きく目を見開いた。


「う、嘘でしょう? 信じられないわ。そんな……フィオナ様が公爵様の妻?」

「どうして信じられないんだ?」


 アシェルはキャサリンを睨みつけながら、フィオナをそっと抱きしめる。


「だって……」


 キャサリンはハリーとアシェルとを見比べ、グッと歯噛みをした。美しさといい、爵位といい、財力といい――どれをとってみても、アシェルの方が数段勝っている。キャサリンとフィオナなら、どう考えてもキャサリンのほうが上なのに――キャサリンはどす黒い感情を胸に抱えたまま、歪んだ笑みを浮かべた。


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