【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「それから、妻が不妊となったキッカケ――暴行を加えられた事件については、現在しかるべき機関に調査を依頼していてね」

「……調査? 事件?」


 もう一度、キャサリンが勢いよく顔を上げる。キャサリンは己を押さえつけるハリーの手を振り払った。


「暴行だなんてそんな……冗談でしょう? フィオナ様はひとりで勝手に階段を落ちてしまわれただけだもの。大体、あれから何カ月も経っているのに、今更調査だなんて……馬鹿馬鹿しい」

「フィオナと彼女の実家が望んでいなかったからね……。だけど、夫となった私は違う。きちんと被害届を提出し、犯人には罰を受けてもらうよ」


 アシェルはそう言って、フィオナの肩をそっと抱く。

 フィオナが被害届を出さなかったのは、出したところでなにも戻ってこないからだ。そうすることでむしろ、自分の苦しみと向き合うことになるのが嫌だった。

 けれど、それではいけないとアシェルから諭されていた。


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