【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
『私はフィオナが傷つけられたことが絶対に許せないんだ。君がどれほど苦しんだのか、相手の女性は知る必要がある』


 あの時フィオナは、そんな必要はないと思った。時間の無駄だ、と。けれど、それは間違いだった。
 キャサリンは反省も後悔も、何ひとつしていない。このままでは近い将来、何人もの人間が彼女に傷つけられてしまうだろう。


「――フィオナの証言だけでも十分だけど、最近になって、事件を目撃したという人が見つかったらしい。近々、犯人の取り調べが行われる予定だと聞いているよ」


 アシェルが言う。キャサリンはハハ、と乾いた笑い声を上げた。


「取り調べ? そ、そんな大げさな! ちょっと押したぐらいで暴行扱いだなんて」

「『ちょっと押した』ね」


 キャサリンがハッと息を呑む。言質を取られた――もう逃げられないと悟ったのだろう。彼女はキッと瞳を吊り上げた。


「なによっ! そのぐらい……!」

「そのぐらい、じゃない! 私は君と、フィオナの元夫を許すつもりはない。絶対に、どんな手を使ってでも、罪を償ってもらう」


 アシェルがジロリとハリーを睨む。


「……嘘だろう?」


 アシェルの口ぶりからして、法外な慰謝料を請求されることは間違いない。おまけに、社交界でアシェルに目をつけられてしまったらおしまいだ。どこにも居場所なんてありはしない。おそらく、伯爵位を継ぐことすらできないだろう。

 ハリーはガクッと膝をつき、その場でうずくまるのだった。


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