【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
 そうして二人の結婚生活がはじまった。
 とはいえ、日中ヘラーは騎士団の仕事にでかけているため、二人で過ごす時間はそう多くない。会話を交わせるのは朝夕の食事のときと、寝る前ぐらいだ。


「アデリナ、今日はどんな一日だった?」


 ヘラーは毎日同じ質問をアデリナに対して投げかける。


「別になにも。昨日と同じ一日でしたわ」


 対するアデリナも毎日同じ返答をした。困ったように微笑むヘラー。使用人が苦笑をしながら身を乗り出す。


「えっと……旦那様、本日奥様はオシャロア侯爵夫人のお茶会に行っていらっしゃいました」

「ああ、そうだったのか! 実は、オシャロア侯爵には以前すごくお世話になったんだ。侯爵は爵位を継ぐ前、王太子殿下の近衛騎士を務めていた時期があってね?」

「存じ上げております。そのとき、ヘラー様は侯爵様の弟子になられたのでしょう? 夫人からお聞きしました」


 だからこそ、私がお茶会に招かれたのですとアデリナは続ける。ヘラーは満面の笑みを浮かべ、アデリナのことをじっと見つめた。


「そうか。リオネル様とイネス様は今、王都にいらっしゃっているんだね?」

「はい。ヘラー様に会いたいとおっしゃっていました」

「それは嬉しいな。今度の休みに会いに行こう。アデリナも一緒に。いいだろう?」

「……好きになさってください」

「それで? 侯爵夫人とどんな話をしたの?」

「どうって……」


 お茶会の話を聞いたところで男性にとってはちっとも楽しくないだろう。アデリナとて、社交は貴族の義務だから仕方なく行っているだけだ。ヘラーに内容を話そうとも思えない。


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