【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
 会場に着くと、二人は並んで挨拶をして回った。人懐っこく、そのくせ礼儀正しいヘラーは顔が広く、放っておいてもたくさんの人が寄ってくるし、会話が途切れることがない。


(ヘラー様はすごい人だわ)


 みんなが彼の人柄に心から惹かれていることが見てわかるし、妻として誇らしいことこの上ない。優しくて、穏やかで、困っている人を見かけたら絶対に放っておけないほどのお人好しで。頑固で、こうと決めたら一直線で。はじめはそんなヘラーに戸惑ったものの、彼の温かさに救われている自分に気づかずにはいられない。


(私、いつの間にかヘラー様のことが……)

「ヘラー、久しぶりね」


 とそのとき、愛らしい声音がヘラーを呼んだ。


「レニャ、久しぶりだね。元気にしていた?」


 と、ヘラーが返事をする。ドクンとアデリナの心臓が大きく鳴った。


(レニャ様って……)


 忘れもしない。ヘラーが一途に思い続けてきた女性だ。アデリナはついつい動揺してしまう。

 レニャはとても愛らしい女性だった。ふわふわのストロベリーブロンドに、緑色の大きな瞳、女性らしい体つきをしているが、屈託のない笑顔はまるで少女のようだ。従姉妹だからか、どことなくヘラーと似ている。


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