【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

3.(END)

 己の気持ちに気づいて以降、アデリナのヘラーへの想いは加速する一方だった。


「愛してるよ、アデリナ」


 最初の頃はまったくなにも感じなかった言葉も、些細なふれあいも、すべてが特別に感じられる。彼と一緒にいられることが、アデリナに向かって微笑んでくれることが、内心嬉しくてたまらない。

 けれど、アデリナは素直になることができなかった。嬉しいと、好きだと、愛していると言えればいいのに、プライドと理性が邪魔をする。ただひとこと「私も」と言えば済む話なのに、ヘラーがどんな反応をするかわからなくて怖いのだ。


(もしも戸惑われたり、困ったような顔をされてしまったら……?)


 ヘラーは責任感の強い人だ。彼が『夫婦だから』という理由でアデリナを愛すると決めてくれたこと、今ではとてもありがたく思っている。
 けれど、アデリナがそれにこたえたとき、彼の義務感はそこで終わってしまうのではないか。そのせいで、彼の態度が変わってしまうことがとても怖い。



「アデリナ様、お客様がお見えになっております」

「お客様?」


 誰だろう? 使用人に言われ、応接間に向かう。


「突然押しかけてすみません」

「レニャ様……」


 そこにいたのはヘラーの想い人、レニャだった。


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