【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「君は誰よりも気高くて、凛として美しくて。けれど本当は強がりで意地っ張りで、すごく弱い人だって知っている。アデリナが笑ってくれると俺も嬉しくて、俺も自然と笑顔になれる。君がいるから強くなれる。俺はもう、君が隣にいてくれなきゃ幸せになれない」

「ヘラー様、だけどそれは……」

「嘘をついているわけでも、義務感で言っているわけでもないよ。そうじゃなきゃ、迎えになんて来ない。こんなふうに涙を流したりしないよ」


 アデリナが見上げると、彼の丸い瞳からポロポロと涙が流れ落ちていた。それがまるで自分のことのように苦しくて、アデリナは思わず彼の頬に手を伸ばす。すると、ヘラーがアデリナの手に自分の手を重ねてそっと包み込んだ。


「帰ろう? 俺たちの家に。帰ってまた、俺の側にいてよ」

「だけど、レニャ様は?」

「俺の妻はアデリナだけだよ。さっきレニャにも、すぐに屋敷を出るように伝えてきた。レニャにはひどいって罵られたけど別に構わない。俺にとって大事なのはアデリナだけだ。本人にもハッキリとそう伝えたよ」


 ヘラーはそう言ってまっすぐにアデリナを見つめる。アデリナは少しためらったのち、はじめて自分からヘラーを抱きしめた。


「いいんですか? 本当に後悔しませんか?」

「しないよ。俺はアデリナと一緒にいたい。アデリナも同じ気持ちだって思っていい?」


 ポンポン、となだめるように撫でられ、アデリナの目頭が熱くなる。


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