【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.

 実家に戻った後、フィオナは死んだように日々を過ごした。眠れる限界までベッドに潜り、朝食と昼食を一緒に済ませる。正直なところ、食欲なんて一ミリもわかなかった。それでも、両親や使用人たちが望むから、申し訳程度に食事をする。
 食事を済ませてからは、自室にこもってぼんやりと過ごした。なにかをしたいなんて思えなかったし、何をしていても楽しくない。時々、使用人たちが散歩や買い物に連れ出してくれたが、フィオナの気持ちは沈みきったままだった。


(――はやく終わってくれないかしら)


 この世の中のすべてが無意味で、無価値なものにしか思えない。今後、フィオナの気持ちが上向くことなんてないだろう。だったら、空虚な一日を過ごす必要は――こうして生きている理由なんてないのではないか――そう思わずにはいられない。

 それでも、気づけばまた、次の朝がやってくる。その事実にフィオナはまた絶望した。


「フィオナに話があるんだ」


 ある日のこと、フィオナの部屋に両親がやってきた。どんな話をされるのか、心当たりなんて山ほどある。けれど、フィオナにはもうどうでもよかった。心はすでに傷だらけで、誰かの慰めも苦言も、受け入れる余裕なんてまったくなかったから。

 虚ろな瞳で「なんでしょう?」と返事をするフィオナに、両親は顔を見合わせた。


「ジョルヴィア公爵家に働きに行ってみる気はないか?」

「え?」


 それはあまりにも思いがけない提案で、フィオナは少しだけ顔を上げる。


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