【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
――本当に、母の執念はすさまじかった。
まず手始めに、彼女は生まれるかどうかもわからない娘の未来のために、己の結婚相手を年老いた辺境伯に定めた。自称絶世の美女で、どんな美しい男とも結婚が可能だったくせに、若く力を持たない男には価値を見いだせなかったらしい。老い先短い父を自分の野望のために利用をしたのだ。父親に軍事力があれば妃選びの際に有利になるし、裕福であれば娘に十分な教育を施すことができるから、と。
父との結婚後、母はユリウス様妊娠の報に合わせ、私を作った。
女の子を妊娠する方法をひたすら調べ、実践し、毎日何度も神殿に通い詰めて神頼みをしたらしい。もしも私が男だったら、母は私を殺していただろう。……割と真面目にそう思う。
無事に生まれてきた子どもが女の子だと――つまり私だとわかったあとは、妃にするためだけに私を育ててきた。
外交のために必要だからと数ヵ国語をマスターするのは序の口で、算術、経済学、科学や化け学に加え、美術や音楽、刺繍やダンス、料理に乗馬に剣術まで、ありとあらゆる知識と技術を叩き込まれる。
それらは自身が妃候補になった際に求められた能力に加え、過去の記録を遡って必要と思われるものを網羅した結果らしい。
ついで他国の妃たちの経歴を調べ上げ、昨今の妃には領地経営と商業的な才覚、農業の経験が求められると知り、そういった能力まで叩き込まれた。
これを執念と言わずしてなんと言おう?
正直私は、なにが母をそんなにも突き動かすのかわからない。妃に選ばれたところで、待っているのはひどく窮屈な生活だろう。自己顕示欲を満たしたいだけならもっと違う形でお願いしたい。
そもそも私は、母の夢を叶えてやるつもりもないのである。
まず手始めに、彼女は生まれるかどうかもわからない娘の未来のために、己の結婚相手を年老いた辺境伯に定めた。自称絶世の美女で、どんな美しい男とも結婚が可能だったくせに、若く力を持たない男には価値を見いだせなかったらしい。老い先短い父を自分の野望のために利用をしたのだ。父親に軍事力があれば妃選びの際に有利になるし、裕福であれば娘に十分な教育を施すことができるから、と。
父との結婚後、母はユリウス様妊娠の報に合わせ、私を作った。
女の子を妊娠する方法をひたすら調べ、実践し、毎日何度も神殿に通い詰めて神頼みをしたらしい。もしも私が男だったら、母は私を殺していただろう。……割と真面目にそう思う。
無事に生まれてきた子どもが女の子だと――つまり私だとわかったあとは、妃にするためだけに私を育ててきた。
外交のために必要だからと数ヵ国語をマスターするのは序の口で、算術、経済学、科学や化け学に加え、美術や音楽、刺繍やダンス、料理に乗馬に剣術まで、ありとあらゆる知識と技術を叩き込まれる。
それらは自身が妃候補になった際に求められた能力に加え、過去の記録を遡って必要と思われるものを網羅した結果らしい。
ついで他国の妃たちの経歴を調べ上げ、昨今の妃には領地経営と商業的な才覚、農業の経験が求められると知り、そういった能力まで叩き込まれた。
これを執念と言わずしてなんと言おう?
正直私は、なにが母をそんなにも突き動かすのかわからない。妃に選ばれたところで、待っているのはひどく窮屈な生活だろう。自己顕示欲を満たしたいだけならもっと違う形でお願いしたい。
そもそも私は、母の夢を叶えてやるつもりもないのである。