【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「話はわかった」

「……! じゃあ……」

「だけど、それはクラウディアの事情であって、俺には全く関係ないよね」


 ユリウス様がニコリと笑う。私は思わず「え?」と返した。


「こっちはさ、国で一番いい女を妃に選びたいわけ。真剣に、この国の未来を考えてるの。それなのに『復讐のために辞退をしたい』だなんて言われて『はいそうですか』と領地に帰してやる義理はない。最後まで付き合ってもらうよ」

「そ、そんな……! というか、殿下の性格、聞いていたのと違っているような……」


 母のリサーチによれば、ユリウス様は温厚なザ・王子様タイプ。いつもニコニコしていて、部下たちに対しても丁寧な言葉遣いをされるお方だって聞いていたんだけど。


「冗談。お前の母親と張り合う女の息子だぞ? 気なんて強いに決まってるだろう?」

「あ……そ、それはそうですね」


 ユリウス様の母親のことはしょっちゅう母から聞かされている。母以上に気が強いって話ではあったけど。


「でも、私は決して殿下をバカにしたつもりはありませんし」

「そんなことは知ってる。というかどうでもいい」

「どうでもよくありません! そもそも、妃ってやる気がない人間に務まる役職じゃないと思うんですよ。本当に。やる気満々で『我こそは』という女性に務めていただくのが世のため人のため殿下のためですから! 私は謹んで辞退をさせていただきたく」

「だが断る」


 ユリウス様はお茶を飲み干すと、私をビシッと指さした。


「辞退は認めない。これからひと月の間、おまえは俺の妃候補だ」


 もはや言い返す言葉が見つからない。私はガックリと肩を落とした。


< 62 / 200 >

この作品をシェア

pagetop