【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです

2.

 とはいえ、辞退が叶わなくたってやりようなんていくらでもある。
 要は妃としての適性がないと示せばいいだけなんだもの。簡単だ。わざと手を抜けばいい。……そう思っていた。


「おまえ、本当は俺の妃になりたいんだろう?」


 ユリウス様が尋ねてくる。彼の手には今しがた完成したばかりの私の刺繍のハンカチが握られていた。


「そんなこと、あるはずがないでしょう?」


 尋ねつつ、周りの候補者たちをぐるりと見回し……唖然としてしまった。
 他の誰も、まだまだ作品は完成しそうにない。なんなら図案すらできあがっていない令嬢もいる。

 私はというと、子どものお遊び程度に仕上げたつもりが、他の候補者たちと比べてそこそこ遜色のないデザイン、仕上がりになっていて、ユリウス様の言わんとしたいことがわかってしまった。


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