【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「あの……ずっと気になっていたんですけど、クラウディア様はどうして妃になりたくないんですか?」


 ナターシャ様が尋ねてくる。私が儀式のときに手を抜いていることはバレバレだし、妃になりたくないこともみんなが知っている。けれど、理由を話した相手はユリウス様だけだ。


「……私の母は陛下の妃候補だったの」


 私はみんなにこれまでの経緯を洗いざらい話した。母が娘の私に王太子妃になる夢を託したこと。それをぶち壊してやりたいと思っていること。ユリウス様に自分の野望を打ち明けたのに、妃候補からの辞退を認めてもらえなかったこと。


「だからね、みんなには私の分まで頑張ってほしくて」


 心からのエールを送れば、ナターシャ様たちは互いに顔を見合わせ、ふふっと微笑み合う。


「それより、私もみんなに聞きたいことがあって。この儀式が終わったあと、どんなふうに生きていけばいいか悩んでいて……」


 そこからようやく私の――私自身の人生がはじまる。だけど、なにをしたらいいのか、どんなふうに生きていきたいのか、現状なんにも思い浮かばない。


「お父さまのあとをついで領地経営?」
「将来有望な女騎士?」
「ヴァイオリニスト?」
「デザイナーや経営者もありでしょうか?」


 私自身はなにも思いつかないというのに、周りはポンポンと案を上げていく。しかも、彼女たちの頭の中には具体的な将来像まで浮かび上がっているらしく、私は思わず苦笑してしまう。


「クラウディア様、どれかお気に召す案がありましたか?」


 令嬢の一人が尋ねてきた。私は目を細めつつ、ふぅと小さく息をつく。


「そうね……ひとまずは、これから先もみんなと仲良くお茶会を開きたい、かな」


 言えば、みんなが声を上げて笑った。

 


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