【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「――ひどいなぁ。どうして俺だけお茶会に呼んでくれないの?」


 それは候補者たちを見送ったあとのこと。ユリウス様が私の部屋をたずねてきた。


「必要性を感じないからですね」

「いやいや、みんな俺の妃候補なのに」

「全員と同時に交流をする必要はないでしょう? 時間は限られているんですし」

「うん。だから、こうして交流を深めに来た」


 ユリウス様はそう言って、私の手をギュッと握る。私は思わず数歩後ずさった。


「私じゃなくて他の候補者のところに行ってください」

「誰と交流をするかは俺自身が決めることだ」

「……私は妃候補を辞退した身ですから」

「だけど、俺は辞退を認めてないし」


 話がまるで通じない。堂々巡りだ。


「――殿下は私のことが好きなんですか?」


 天邪鬼な彼のことだ。こう聞けばきっと『違う』とこたえてくれるだろう。

 そもそも、彼が私に構うのは、私が自分の思い通りにならないからだ。勝手に妃候補を辞退しようとし、厳正な儀式で手抜きをする。それが気に食わないからかまっているだけなのだろうと思う。


「好き……かどうかはわからないけど、気にはなっていると思う。君は俺によく似ているから」


 けれど、ユリウス様は神妙な面持ちで、私のことをじっと見下ろした。思わずドキリと心臓が跳ねる。


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