【短編集】あなたのおかげで今、わたしは幸せです
「まったく、あなたという人は……」


 ラブのこういう素直なところは可愛いし、好ましいと思う。神様は彼女のこういうところを愛したのだろうか? ――そう思うと、なぜだかジリジリと胸が焦がれた。


「――どうやってここまで入ってきたの!? 帰って! 二度と顔を見せないでよ」


 とそのとき、ラブたちが向かう方角からそんな声が聞こえてきた。ステラの声だ。


「親に向かってなんだ、その態度は!?」

「そうよ、ステラ。あなただけこんなところでいい生活を送るなんて許せないわ! だいたい、誰のおかげでこの世に生まれたと思ってるの? わたしたちのおかげでしょう? 本当に恩知らずな子ね」


 会話の内容から判断するに、相手は彼女の両親らしい。聖騎士ラウルがふたりを引き剥がしているが、ものすごい圧だ。


「聖女候補には国からお給金が出ているんだろう? 寄越しなさい」

「いやよ。誰があなたたちになんか……!」

「バカをおっしゃい。子どものものは親のものって相場が決まっているのよ。あなたが寄越さないなら、直接上の人間に働きかけてもいいんだけど……」

「やめて! お願いだからやめてよ!」


 ステラの瞳から涙がこぼれる。普段のすまし顔からは想像できないほど悲痛な表情だ。これには、彼女にいい印象を抱いていないリアムも胸を打たれてしまう。

 とそのときだ。
 まばゆい光とともにハチの群れが現れ、ステラの両親を取り囲んだ。


< 97 / 200 >

この作品をシェア

pagetop