泡沫の恋
勝負
────Side 朔夜


先程まで暖かい場所に居たはずなのに今や周りの空気は冷え切っていて、本来なら前回で最後にしたかったはずの相手が今や目の前に居る。

薄暗い倉庫の中でも分かる、相変わらず胡散臭さ全開の笑みを浮かべている深見。

今回は約束通り1人で来たみたいだけど。


「今回はお仲間連れてないんだな」

「連れてきた方が良かった?狂犬の朔夜くんには」


お互い仕掛けるタイミングを見計らっているのか、近くまで寄ろうとはしない。

迂闊に近付いてタイミングを見間違えばナイフで刺されるのがオチなのも見えていた。

きっと拳銃は持っていない。

殴り合いの喧嘩なんてガキの約束みたいなものをどのくらいまで守っているか分からないから警戒しておくに越したことは無い。


「聞きたいんやけどさ、君何で星羅ちゃんの為にそこまですんの?」

「は?」

「星羅ちゃん可哀想やと思わへん?君を好きで期待を持たせられるようなことばっかされて、君はあの子の気持ちに応えてあげへんのやろ?」

「…星羅を利用してうちを調べてたクソ野郎には何も言われたくねぇけどな」


出会ってからずっと大事だった。

恋愛感情は置いて、傷付けない様に近くで見守ってきたんだよ、ずっと。

困った時は助けになろうって決めてた。

あの日、星羅が護衛係に放置された日も、たまたま何もなかったからよかったけど、何かあったら俺はきっとあいつを殴るだけじゃ済まなかった。

そしたら俺が護衛係なんて、近すぎる距離になって。

こんなに手が汚れた俺がずっと星羅の近くに居るなんて、出来るわけない。

”普通の生活がしたい”って言う星羅の言葉をずっと聞いてきたからこそ。
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