泡沫の恋
一度距離を取るために牽制で大きく左足で回しけると深見は想像通り軽々と避けて一歩引いた。

避けたタイミングすぐは深見は顔を俯かせる癖があるからか、一度こっちの様子を見ようとして隙が出来る。

その間に距離を詰めて、力いっぱいに込めた右拳を顔面に向けて思い切り振り上げて殴るとよろけてその倒れ込みそうな瞬間に追撃して床に倒し込む。

そのまま馬乗りになって、胸元のシャツを鷲掴みにした。


「…お前、喧嘩得意じゃないんじゃね?」

「売られた喧嘩苦手分野やからって断れると思う?」

「それはだっせぇな」

「そもそも俺が仕掛けるんやったら賭けでロシアンルーレットでもしてるって」

「お前のがタチ悪いだろそれ」


深見は降参とでも言いたげに両手をその場で上げて少しだけ笑う。

俺の顔も人の顔を笑えないくらいにはボロボロだったと思うけど、深見の顔が俺のせいで傷だらけになっているのが若干可笑しくて手を離す。

深見の所から避けて、煙草を取り出すと一本口に咥えて火をつける。


「吸う?」

「…一本」

「ほら」


煙草を一本取らせてライターを投げる。

喧嘩は確かに俺が得意な分野だったと思う。

深見は頭が良いのは知ってたし、だからとはいえ何もできない程弱くもない。


「もう気にせんでも星羅ちゃんには何もせんよ。」

「あたりめぇだ、そう言う条件だったろ。」

「俺が勝ったら本気で引き抜こうと思ってたんになあ」


そう言いながら煙草を蒸かして、笑っている。
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