泡沫の恋
記憶
────Side 星羅


予想通り、朔夜は戻ってこなかった。

それは1日が経とうが、1か月が経とうが、1年が経とうがずっと、ずっと。

昔の写真を見ては笑顔で映る朔夜を見てまた私は忘れられなくなる。

あの日から2年後、私は家を出て普通の社会人をしている。

私を狙う他の組なんて居なくなったし、家を出て半年、家には近寄っていない。

新しい護衛係が付いたりした時もあったけど何もなく穏やかで、今や組は私の存在で脅かされてなんていない。

帰れなかったのはあの家が嫌だったとか、お父さんが嫌いになったとかじゃない。

朔夜との思い出が詰まったあの家に帰れなくなっただけ。

いまだ新しい恋には踏み出せず、どこで何をしているか分からない男の事を考えては、前向きにはなれなかった。

今や私の欲しかった普通はここにあるのに。

普通じゃなくても朔夜が近くに居てくれたあの頃が幸せだったって言える。

こんなに考えては会いたくなってその繰り返しだった。
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