泡沫の恋
連れて来られたのはマンションだった。

どうやら朔夜の家らしくて、それはそれで緊張してしまう。

家の中に入ると、朔夜は「着替えてくるから、ソファーで座って待ってて。てか、お前も着替える?」なんて声を掛けてくる。


「き、着替えるって…」

「帰すつもりないって言ったろ。ずっとスーツで居るつもり?俺の服しかないけど、何かしらは着れんだろ」


そう言いながら別の部屋に下がってしまう。

お、お泊まり…。

男の人の家に泊まるなんてしたことない。

緊張で心臓がバクバク鳴っていた。

言われた通りひとまずソファーに座って大人しくする。

黒を基調としたインテリアが多くて何だか朔夜らしさを感じる。

シックな感じの部屋の雰囲気だ。

朔夜が着替えて戻ってくると、私に服を渡してくる。


「着れると思うけど、着れなかったら別なの用意するから言って」

「…てっきり遊んでて女の人の服常備してるのかと思った」

「はあ?お前ね…。ここに上がったのもお前が初めてだし、…てか、あの夜が最後。」


そう言って身体をキッチンの方に向けてしまう。

今どんな表情して言ったの?

期待してしまいそうになる、今度こそ本当に手を離さず朔夜も私を好きで居てくれるんじゃないかって。

もうあんな思いしたくないから突き放すなら早めに突き放してほしいのに。
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