泡沫の恋
それから数分後、朔夜が部屋に入ってくる。


「お前…!どういうつもりだよ!」

「何が?何でそんなに怒ってるのよ。」

「縁談なんて前からしたくねぇって言ってただろうが!何すんなり受け入れて、いつもなら駄々捏ねて通す癖に!」

「もういいの、どうせ誰かとそういう風になるか、この家に縛られ続けて行くかしかないんだから。どっちも一緒でしょ?」


そう言ってノートパソコンでひたすら課題をこなす。朔夜がそんなに怒ってくるとは思わなくて少し驚いた。

冷静な私とは反対に、焦った表情で感情的に物を言ってくる朔夜。かつてこんな風に怒ってきた事あっただろうか。

私はひたすらに真っ直ぐに朔夜を見つめ返すと、朔夜は私が座ってる前にしゃがみこんで私の手をそっと掴む。


「一緒じゃ、ねぇだろ…。今まで言うこと聞きたくなくて、抵抗してきたんじゃねぇの?何でこんな時に変に大人ぶるんだよ…。」

「…ひとまず、私まだ大学生だしすぐに結婚したりするわけじやないし大丈夫でしょ。後2年は好き勝手やるつもり!だから、付き合ってよね。護衛係として、これからもまだまだ。」


そんな風に伝えると朔夜は私の顔を見てもスッキリしないような表情で、掴んでいた手をそっと離す。


「…俺、お前にそんな責任の取り方してほしいわけじゃねぇよ。」


そう言って立ち上がると、私に背を向けて部屋を出ていく。朔夜の低く小さく呟かれた言葉だけが私の耳に残っていく。

朔夜はそういう人だよね。この世界に足を突っ込んだ割にまだ真っ直ぐな所があって、優しい所もある。

仕事をしている時の朔夜がどんな感じなのかとか全ては私にはわからないけど、根は良い人だと思うよ。
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