泡沫の恋
『今ね、眠ってもらってるよ。騒がれても面倒やし、今頃君の事でも考えながら夢見てるんちゃうかな。』

「…要件は」

『星羅ちゃんが無事に帰ってきてほしかったら朔夜くん一人で、5時間以内に一人で海辺の倉庫に来いとか?ヒントはその家から大体車で1時間くらいで来られる場所。もし来れんかった場合は…、この子どっか売り飛ばされるか、死ぬかも。ね。』


脅しの言葉を吐いて、その言葉に俺は何も返さず電話を切る。

この男に今何かを言っても無駄。

今考えなきゃいけないのは星羅を救う事。

出る準備をしながら、急いで組長の部屋を訪れる。

いつもなら声を掛けるなり合図をしてから入る俺だけど、今だけは不躾なのを承知で襖を開けた。

ガンっと柱に勢いよく襖は打ち付けられて組長はこっちに顔を向ける。


「…知ってたか。佐原組の事。どこまでわかってた。」

「簡潔に説明しなさい。何があった。」


ただ事ではない俺の反応に組長の低い声が飛んでくる。


「組の無駄な利益を求めたせいで星羅は人質に取られたぞ。どんな気分だよ、同盟なんてない。挙句の果て娘まで失いそうで。」


俺の言葉に組長は何も返そうとしない。

何も返せる言葉なんて、こんな男にあるわけない。


「…今聞く事じゃねぇか。相手は俺が1人で来いって言ってる。だから、行ってくるから。」


それだけ言い放って指示も何も聞かず部屋を出る。

組長が俺の名前を怒鳴るように呼んでた気がするけどそんなのに構っている時間はない。

星羅が無事に帰ってきてから…。
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