泡沫の恋
「ごめ…、私のせいで、危険な目に…。私置いて出てくれて大丈夫」

「ふざけんな。俺が護衛係な限りお前に死なれたら困るんだよ。命張っても守るって決めてるから。置いてくとか胸糞悪い事言うな」

「もう朔夜を危険に曝したくないよ、私。」

「もう黙れ。わかってんだよ、とっくに足突っ込んだ時から危険な事なんて。」


そう言いながら手と足の縄をナイフで手際良く切る。

それから朔夜は私の肩を掴んで目を合わせると、軽く頭を撫でて安心させるように少し笑みを見せてくれる。


「いいか、もし捕まりそうになったら俺の事置いてでも外に逃げようとして。外にさえ出ればどうとでもなるようにしてるから、意地でも外に出ろ。」

「嫌、何でそんなこと言うの」

「お前居たら逆に気取られるから、頼むから言う事聞いて。分かった?」


言い聞かせる様な優しい言い方。

その分かった?の聞き方は高校生の時の出会いたての朔夜を思い出した。

私が好きで仕方なかった、初めて恋をした瞬間の朔夜。

その言い方で私はうんと素直に首を縦に振るしかない。

朔夜は「良い子」と言って私の腕を引いて立たせる。

いつも言葉は足らないけど、こういう時の朔夜を私は信じるしかない。
< 82 / 117 >

この作品をシェア

pagetop