泡沫の恋
私は手を握りながらいつの間にか眠ってしまっていたらしい。

優しく手を離さずに今度は握られている感覚にハッとする。

バッと体を起こすと、朔夜は体を起こして誰かと電話をしていた。


「徹底的にやれよ。そんな甘いやり方すんな。さっさと沈めて黙らせろ。」


低い声で誰かに指示を出す朔夜にいつも通りだと少しだけ安心して涙をこぼす。

朔夜は電話を切ると、そのままこちらに視線を向けふっと笑みを向ける。


「ひっどい顔だな。お嬢は」

「…お嬢って呼ばないで」

「はいはい、おはよ。星羅」


いつもの調子でつらつらと話す朔夜に思わず思いきり抱き締める。


「…っ…、いってぇ…。まだ怪我人なんだけど俺。」

「目、覚ましてくれて良かった…!」


私の言葉に可笑しそうに笑って背中に腕を回すと、そのまま頭を撫でてくれる。

優しい手つきで大事に、安心しろとでも言いたげに背中をポンポンとしてくれる。

もうこんな風に抱き着けなかったらって怖かった。

ちゃんと感じる体温のぬくもりに生きてると実感する。

朔夜を失うのが私は何よりも怖かったみたいだった。


「…抱き着きすぎ。年頃の女が何とも思ってない男に胸当てんな。」


そう言われて思わず離れると、朔夜は少し笑っていた。

何とも思ってないって、思われていても仕方ない。

ずっと拒絶してきていたから。
< 90 / 117 >

この作品をシェア

pagetop