泡沫の恋
「…思ってたら、良いの」

「あ?」


朔夜の病院服をぎゅっと掴むとそのまま自身の唇をぶつけるように、朔夜の唇に口付ける。

ぶつかる直前、朔夜が少し驚いた表情をしていた。

初めてのキスは少し痛くて、感触とか、キスの味なんて何もわかんない。


「…好き、だから!帰ってきたら、覚悟しといてね!後、色々とごめんね。守ってくれて、嬉しかった。」


伝えたいことを全て伝え終わると、病室を走って出て行く。

朔夜のその時の表情なんて恥ずかしさで覚えてない。

もう誤魔化せない。

私、朔夜が好きだ。

初恋のあの日の様に湧き上がるこの感情が恋で間違いない事、私が一番知ってる。




その頃病室で唇をなぞりながら「…へったくそ」と呟かれていた事なんて、当然知る訳が無い。
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