泡沫の恋
今日は朔夜が退院してくる日。

私は出迎えにも行けず、部屋に閉じこもっていた。

あんな大胆な事して会いに行けない…。

ベッドで寝転がって思い出しては顔が熱くなってゴロゴロと転がる。

あんな男にまさかの強引な告白してキスするなんて…!

朔夜も痛かっただろうな…。

もう焦ってたし、何が正解かもわからない事故の様なキス。

今組員が朔夜を迎えに行ってそろそろ帰ってくる頃だと思う。

やばい、護衛係とかやめるとか言われる…!?

かなり早まったことをした自分を少し後悔していた。

廊下の方から足音が聞こえてきて私は慌てて上布団を被る。

部屋のドアが開いた気がするけど、私は壁の方を向いてドアの方は見ないで寝たフリをする。

ノックも無しで入ってくるなんて絶対朔夜!


「おい、命を張って守ってやった護衛係の出迎えも無しってどういう事だよ、バカ娘」


その不機嫌な声の方に何となく抗えなくて体制を変えてドアの方を見る。

呆れた様な顔で腕を組んでドアの枠に寄り掛かってこちらを見ている朔夜。


「…おかえり」

「ただいま。」


それだけ言うと、部屋のドアを閉めてこちらに歩み寄り、ベッドの淵に腰を掛けて私の頭を優しく撫でる。


「…病室での事なら、気にすんな。」

「え?」

「守ってくれた相手が少し良く見えただけ。お前は…、ちゃんとまともな男と恋をしてこんな家出ろ。」


なんて帰ってきて早々勘違いだと牽制されてしまった。


「それだけ言いたくて来た。」


そう言って立ち上がろうとする朔夜の服の裾を私は慌てて掴む。

何でそんなに突き放す事言うの。
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