シンデレラ・プロジェクト~魔法のワンピースと体重計の精霊~

シンデレラのワンピース

 だって、こんなに迷うってことは、やっぱり買わないで帰ったら後悔するもの。

「これ、サイズは?」
「ワンサイズだけの一点もの!」
「え……」
 
 入るかな。ちょっと微妙なんだけれど……。
 丈は丁度良いし、表示サイズは……うん。大丈夫なはず……

「大丈夫! 大丈夫! きっと入るから! うん、お姉さんの見立てでは、ばっちり!」
「でも試着はしないと……試着室は?」
「それが……壊れて使えないの」
「ええっ!」

 無茶じゃない? だって、だって入らなかったら、どんなに素敵なワンピでも役立たずだ。

「お願い! 助けると思って! 最近、このお店に来れる客、少ないのよ!」
「いや、それはこのお店の場所が悪いんじゃないですか? もっとほら、人通りの多いところにお店を引っ越すとか」
「それが、そうも行かないのよ。魔法条約的なあれでほら、顧客も限られていて」
「なんなんですか、その訳わからない理由は!」
「ともかく、お願い! 助けて!」

 うわ……。これじゃあ押し売りだ。
 確かに、このお店、お客さん少なそうだものね……。
 ワンピの丈は大丈夫だし……。
 ワンピ自体は素敵だし……。

「サービスするから! ね?」

 店員が、わたしに向かって両手を合わせて拝み始める。いや……おがまれても……
 弱いのだ。わたしは、こういうオシに。
 
「分かりました」
「ありがとうございます〜! もう、返品できないからね! サービスの『従者のしずく』もお渡しします〜」
「従者のしずく……」

 また怪しいものが出てきた。
 サービス品だっていうから、無料。それは嬉しいけれど。なんだか一々怪しい。

「で、これが契約書」
「え、ワンピ買うのに契約書なんて要るの?」
「そうよ。魔法のかかった物を契約もなしに渡せないのよ」
「どうしよう……面倒になってきたな……」

 わたしは、ワンピースを買おうかやめようか、また悩みはじめる。

「わ、待って、そんな難しくないから、このワンピースを買って叶えたい願いを書いて、名前を入れるだけだから。ね! ね!」

 店員さんは、何やら必死だ。ひょっとしたら売り上げノルマが相当厳しいのかも。
 店員さん……営業ヘタそうだし。

「願いごとを書くの?」
「そうそう。ええっと、神社の絵馬とか、七夕の短冊とか、サンタのお手紙とか。あんな感じに気軽〜に書いてくれれば大丈夫だから!」

 なんだかめちゃくちゃな言い分だが、まぁ……七夕、そう言えば、そろそろだし。
 紙に願いごとを書くくらい、そんなに身構えなくっても良いのかも。
 店員さんに渡されたペンを持つと、勝手に手が動き出して、サラサラッと契約書に文を書きはじめる。

『わたし、西門まりあは、このワンピースを着て好きな人に告白します。成功しますように』

 うわ……書いちゃった。

「期限は? いつまで?」
「え? 期限?」
「今日中にしておく?」
「そんな無茶な。……そうね……」

 夏休みは、あと一ヶ月ほど先に迫っている。

「じゃあ、夏休みまでに……一ヶ月後かな」

 わたしは、契約書に一ヶ月後の日付を記載した。

「はい、お買い上げありがとうございました!」

 店員は、一瞬、冷たい表情を浮かべた気がしたが、また、すぐ、元の営業スマイルに戻った。
 わたしは、買ってしまったのだ。
 後で後悔することも知らずに。
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