シンデレラ・プロジェクト~魔法のワンピースと体重計の精霊~
放課後の図書室
学校に行って、授業を受けた放課後。
私は一人図書室で本を読む。
図書委員としての仕事を終えれば、自由に本を楽しめるのは、本好きの私としてはありがたい。
でも、今日は、大好きなファンタジーや恋愛小説を読んでいる場合ではない。
ケイ君のことを調べてみないと。
私は、辞書や民話、そんなものを手当たり次第に調べてみる。
……と、付喪神。あった。
本によれば、付喪神とは、長く使われた道具に魂が宿り、妖になるというものだ。
「あの体重計はたしか、わたしが産まれる直前に買ったっていっていたのよね。だから、ずいぶん古いはず。もう十年は経っているもの」
古い物に魂が宿るっていう条件は、一応満たしている。
でも、十年くらい経った体重計なんて、この世にはたくさんあるはずだ。それが全部、魂が宿って付喪神になって、ハムスターや男の子になったら大騒ぎだ。
だったら、やっぱり、あの『従者のしずく』という薬が、体重計からケイ君が出てきた原因となるだろう。
古い体重計に、あの薬がかかって、魂が宿った……とても信じられない話だが、ケイ君が目の前にいるのだから、信じなきゃ仕方ない。
「まりあ! ほら、あいつだろう? 大川祐樹って!」
窓から外を見ていたハムスター姿のケイ君が、わたしに声を掛ける。
呼ばれて窓から外をみれば、祐樹君がみんなと部活でサッカーをしているところだった。
『大川』と書かれたジャージを着て、みんなに「祐樹! パス!」なんて声を掛けられているから、それでケイ君も名前に気づいたのだろう。
「なんだ。爽やかなイケメンじゃないか」
「そうなの。そして、人気者。いっつもああやって、みんなに囲まれているの」
高嶺の花……。男の子に使うのが正解かどうかは分からないけれど、祐樹君は、わたしにとって高嶺の花だ。
決して手の届かない存在。
「やっぱりアイドルみたいに細い体型にならないと無理かな?」
高嶺の花に告白するならば、自分も高嶺の花みたいな、アイドルみたいな存在にならないとダメなんじゃないかって、思ったのだ。
「アイドル……?」
「みんなの憧れの存在。すごくスタイルが良くって、顔も可愛くって、オシャレで歌も踊りもすごく上手なの」
私は、ケイ君に図書館の雑誌にあった、アイドルの写真を見せる。
「可愛いでしょう? わたしと同じ身長なのにすっごく細いの」
わたしは、ケイ君にアイドルの体重を教える。インターネットには、アイドルの情報がたくさん流れているから、わたしも会ったこともないアイドルの体重を知ることができた。
このアイドルの少女のあまりの体重の軽さに、わたしは、自分の体重とはかけ離れているその数値を覚えていたのだ。
「え、そんな体重で、踊ったり歌ったりしているの? そんな馬鹿な!」
ケイ君が、数値を聞いて驚く。
「どうしてよ?」
「だって考えてもみなよ。人間は、羽で出来ているわけじゃないんだぜ?」
「まぁ、そりゃそうよ」
うん。私だってアイドルがどんなに天使みたいな見た目でも、羽で出来ているなんて思っていない。
「骨と内臓、それに骨を動かす筋肉なんかぎ合わさって出来ているんだぜ? 体を動かす最低限の体重って、どう考えても必要だろう? なかったら病気になる」
「でも、公式に発表されてるし。それが嘘だっていうの?」
大好きなアイドルを嘘つき呼ばわりされて、わたしは腹が立つ。
だって、あんなにキラキラで可愛い子達が、わざわざ嘘つく必要、なくない?
「嘘とは違うかも。うーん。設定とか?」
「どういうことよ?」
「みんなに素敵って思われないと駄目な職業なんだろう? だったらみんなが憧れそうな体重だって設定で仕事しているんじゃないかな?」
「設定?」
わたしは首を傾げる。
「そう。例えば、測定の時だけ軽くして、後は、歌や踊りを頑張るために、必要な体重に戻すんだよ。計量が必要なアスリートは、そんな風にして試合前に体重を計って、その後は、試合に必要な体力をつけるために、適正な体重まで増やすんだ」
……なるほど……それなら、嘘とは言えないのか……
確かに、学校中のどんなに可愛い細い子よりも、さらに細い体重のアイドルもたくさんいる。
わたしは、それを見て、やっぱりアイドルって、普通の人とは、体型からして全く違う人間なんだって、勝手に納得していた。
だけれでも、ケイ君に言われてよくよく考えれば、アイドルだって人間なんだよね。
健康じゃないと活躍できないし、歌や踊りには、筋肉も体力も必要だろう。
「え、じゃあ……」
「そう、その数字を鵜呑みにして、日常的にその体重になろうと単にダイエットするのは、危険だってこと。病気になっちゃう。脂分と水分がたっぷり必要な肌なんか一番最初にボロボロになるんだぜ?」
体重計の精霊であるケイ君、さすが体重や健康には詳しい。
「じゃあどうすればいいのよ?」
「健康を保てる適正体重で、筋肉をキチンとつければいいんだよ。まりあの場合、今日学校での様子をずっと見ていたけれど、運動が足りていない」
それは……返す言葉がない。
休み時間もずっと本を読んでいるし、運動は苦手だもの。
「だから、運動する習慣をつけて、適正な食事量を保てば、自然と健康的で締まった体になるはずだぜ」
「運動する……習慣……」
うわ……。嫌だ……。
でも、あのワンピースを着て、祐樹君に告白するには……。
ちらりと見た窓の外では、祐樹君が休憩して汗を拭いている。
「あの男の子、運動好きそうだな~。きっと、デートとかも、一緒にジョギングとか、運動系が多いんじゃないかな~」
運動と聞いて尻込みするわたしに、ケイ君が、あからさまに誘導するようなセリフをはく。
「よ、よし。わたし、頑張る!」
「えらい! じゃあ、まずは、帰宅する時に、バスに乗らずに、二キロは余分に歩いて帰ろうか!」
「ふえ? 二キロ?」
わたしの決心は、ポキリと折れそうだった。
私は一人図書室で本を読む。
図書委員としての仕事を終えれば、自由に本を楽しめるのは、本好きの私としてはありがたい。
でも、今日は、大好きなファンタジーや恋愛小説を読んでいる場合ではない。
ケイ君のことを調べてみないと。
私は、辞書や民話、そんなものを手当たり次第に調べてみる。
……と、付喪神。あった。
本によれば、付喪神とは、長く使われた道具に魂が宿り、妖になるというものだ。
「あの体重計はたしか、わたしが産まれる直前に買ったっていっていたのよね。だから、ずいぶん古いはず。もう十年は経っているもの」
古い物に魂が宿るっていう条件は、一応満たしている。
でも、十年くらい経った体重計なんて、この世にはたくさんあるはずだ。それが全部、魂が宿って付喪神になって、ハムスターや男の子になったら大騒ぎだ。
だったら、やっぱり、あの『従者のしずく』という薬が、体重計からケイ君が出てきた原因となるだろう。
古い体重計に、あの薬がかかって、魂が宿った……とても信じられない話だが、ケイ君が目の前にいるのだから、信じなきゃ仕方ない。
「まりあ! ほら、あいつだろう? 大川祐樹って!」
窓から外を見ていたハムスター姿のケイ君が、わたしに声を掛ける。
呼ばれて窓から外をみれば、祐樹君がみんなと部活でサッカーをしているところだった。
『大川』と書かれたジャージを着て、みんなに「祐樹! パス!」なんて声を掛けられているから、それでケイ君も名前に気づいたのだろう。
「なんだ。爽やかなイケメンじゃないか」
「そうなの。そして、人気者。いっつもああやって、みんなに囲まれているの」
高嶺の花……。男の子に使うのが正解かどうかは分からないけれど、祐樹君は、わたしにとって高嶺の花だ。
決して手の届かない存在。
「やっぱりアイドルみたいに細い体型にならないと無理かな?」
高嶺の花に告白するならば、自分も高嶺の花みたいな、アイドルみたいな存在にならないとダメなんじゃないかって、思ったのだ。
「アイドル……?」
「みんなの憧れの存在。すごくスタイルが良くって、顔も可愛くって、オシャレで歌も踊りもすごく上手なの」
私は、ケイ君に図書館の雑誌にあった、アイドルの写真を見せる。
「可愛いでしょう? わたしと同じ身長なのにすっごく細いの」
わたしは、ケイ君にアイドルの体重を教える。インターネットには、アイドルの情報がたくさん流れているから、わたしも会ったこともないアイドルの体重を知ることができた。
このアイドルの少女のあまりの体重の軽さに、わたしは、自分の体重とはかけ離れているその数値を覚えていたのだ。
「え、そんな体重で、踊ったり歌ったりしているの? そんな馬鹿な!」
ケイ君が、数値を聞いて驚く。
「どうしてよ?」
「だって考えてもみなよ。人間は、羽で出来ているわけじゃないんだぜ?」
「まぁ、そりゃそうよ」
うん。私だってアイドルがどんなに天使みたいな見た目でも、羽で出来ているなんて思っていない。
「骨と内臓、それに骨を動かす筋肉なんかぎ合わさって出来ているんだぜ? 体を動かす最低限の体重って、どう考えても必要だろう? なかったら病気になる」
「でも、公式に発表されてるし。それが嘘だっていうの?」
大好きなアイドルを嘘つき呼ばわりされて、わたしは腹が立つ。
だって、あんなにキラキラで可愛い子達が、わざわざ嘘つく必要、なくない?
「嘘とは違うかも。うーん。設定とか?」
「どういうことよ?」
「みんなに素敵って思われないと駄目な職業なんだろう? だったらみんなが憧れそうな体重だって設定で仕事しているんじゃないかな?」
「設定?」
わたしは首を傾げる。
「そう。例えば、測定の時だけ軽くして、後は、歌や踊りを頑張るために、必要な体重に戻すんだよ。計量が必要なアスリートは、そんな風にして試合前に体重を計って、その後は、試合に必要な体力をつけるために、適正な体重まで増やすんだ」
……なるほど……それなら、嘘とは言えないのか……
確かに、学校中のどんなに可愛い細い子よりも、さらに細い体重のアイドルもたくさんいる。
わたしは、それを見て、やっぱりアイドルって、普通の人とは、体型からして全く違う人間なんだって、勝手に納得していた。
だけれでも、ケイ君に言われてよくよく考えれば、アイドルだって人間なんだよね。
健康じゃないと活躍できないし、歌や踊りには、筋肉も体力も必要だろう。
「え、じゃあ……」
「そう、その数字を鵜呑みにして、日常的にその体重になろうと単にダイエットするのは、危険だってこと。病気になっちゃう。脂分と水分がたっぷり必要な肌なんか一番最初にボロボロになるんだぜ?」
体重計の精霊であるケイ君、さすが体重や健康には詳しい。
「じゃあどうすればいいのよ?」
「健康を保てる適正体重で、筋肉をキチンとつければいいんだよ。まりあの場合、今日学校での様子をずっと見ていたけれど、運動が足りていない」
それは……返す言葉がない。
休み時間もずっと本を読んでいるし、運動は苦手だもの。
「だから、運動する習慣をつけて、適正な食事量を保てば、自然と健康的で締まった体になるはずだぜ」
「運動する……習慣……」
うわ……。嫌だ……。
でも、あのワンピースを着て、祐樹君に告白するには……。
ちらりと見た窓の外では、祐樹君が休憩して汗を拭いている。
「あの男の子、運動好きそうだな~。きっと、デートとかも、一緒にジョギングとか、運動系が多いんじゃないかな~」
運動と聞いて尻込みするわたしに、ケイ君が、あからさまに誘導するようなセリフをはく。
「よ、よし。わたし、頑張る!」
「えらい! じゃあ、まずは、帰宅する時に、バスに乗らずに、二キロは余分に歩いて帰ろうか!」
「ふえ? 二キロ?」
わたしの決心は、ポキリと折れそうだった。