シンデレラ・プロジェクト~魔法のワンピースと体重計の精霊~

きびしい!

 たくさん歩いて帰って、くたくたの私。
 家に帰った途端に玄関に倒れ込む。

 「ただいま~」

 二キロ、だいたい三十分くらい余分に歩いた。
 何度もくじけそうになったけれども、肩に乗ったハムスターの姿のケイ君に励まされて乗り越えられた。

 「エライ! よく頑張ったじゃねえか!」

 ハムスターのケイ君が、小さなお手々をパチパチと叩いて褒めてくれる。
 可愛い。
 うん、こんな可愛い生き物が褒めてくれるのは、とても嬉しい。

 「じゃあ、明日は、朝も三十分早く起きて、歩いて登校な!」
 「げっ!」

 ケイ君……。厳しい。

 部屋に入ると、ポフンという音と共にケイ君が人間の姿に戻って、伸びをする。

 「さてと!」
 「わっ!」

 毎回、お姫様抱っこするのは、やめてほしい。
 やっぱり、これは、ドキドキする……。

 「うん。まだ一日目だからな、体重はほとんど変わっていないな」
 「あんなに歩いたのに?」
 「逆に、早く減り過ぎてもダメなんだよ。それは、体に無理をさせているってことだから」
 「そうなんだ……」
 「そうそう。そんな急激に減らした体重なんて、すぐ戻るぜ? だって、体は、痩せた体に対応していないのに、一時的に減っただけなんだから」

 体重の管理って、案外難しいんだ。
 すぐに減った方が、わたしとしては有り難いんだけれど。

 「ちちんぷい! で、すぐ痩せる方法はないの?」

 できれば、ケイ君が推奨するやり方ではなく、やせる薬とか魔法で、一瞬で素敵な体型になりたい。
 それこそ、放課後の図書室でケイ君と話していたアイドル達のような、可愛いって誰もが言ってくれる体型になりたい。それは、全乙女の夢ではないだろうか。

 「無理。そんなのがあったって、根本的にそういう体型を維持する生活が身についていないと、あっという間に元に戻っちゃうんだってば」

 そうか。まぁ考えてみたらそうよね。
 だって、その体型を維持するのって、やっぱり食事制限とか運動とか必要だろうし。
 わたしが今の体型なのは、運動嫌いで甘いもの好きな、わたしの生活が原因なのだから。

 残念。理想の体型は、そう簡単に手に入らないようだ。
 人生、そうそう上手くはいかない。

 「大丈夫だから。まりあ。俺が、一ヶ月で、ちゃんとワンピの似合う体型にしてやるから」
 「でも……不安だよ」
 「まりあ、お前は、そのままでも十分可愛い。でも、まりあの理想があるんだろ? だから、俺は、協力するんだ。俺は、従者だから」

 ケイ君は、そう言って片膝をつくと、うやうやしくわたしの右手を取って、手の甲にキスを落とした。
 え……キス……。
 真っ赤になっているわたしを、ケイ君は見つめる。

 「まりあ。俺を呼び出して名前をくれた、俺の主人。俺は、キミの願いを叶えるために、ここにいるんだ」
 「ケイ君……」
 「俺を信じて?」

 ケイ君の甘い声。こんなの、逆らえない。「わ、わかった……」そう、言うしか、わたしは出来なかった。

 「……て、ことで、明日は、三十分早く起きて、家を出るんだ! 決まりだ!」

 ううっ。なんか騙されたかもしれない。
 ケイ君がきびしい。もうへこたれそう。
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