不器用な刀鍛冶は真剣な愛を捧げることしかできない

①主要キャラクターの説明

・雛形　さくら　（ひながた　さくら）
25歳。茶髪セミロング。小柄で素直な性格と愛嬌のある笑顔が取り柄。地元の大学卒業後、就職のため上京。三年で職場内の人間関係のトラブルに巻き込まれ退職。地元へと帰郷し龍之介と出会う。恋愛絡みで傷心中のため男性不信気味。押しに弱い。

・光宗　龍之介　（みつむね　りゅうのすけ）
29歳。黒髪短髪・容姿端麗・筋肉質。刀鍛冶。中学卒業後、田舎で代々刀鍛冶を生業とする家系の長男。祖父の元で修行を経て刀鍛冶に。不器用ながら真っすぐな性格。仕事に集中するため恋愛から遠ざかっていたが、30歳に近づくにつれ、跡継ぎ問題を本気で考え始めている。

・光宗　錬太郎　（みつむね　れんたろう）
33歳。金髪モデル体型。龍之介の兄で光宗家長男。跡継ぎになるのが嫌で上京。ホストからホスト経営者へ。楽観的で掴みどころのない性格。ビジネスの匂いを嗅ぎ付け地元へと顔を出す。ほぼ家出の状態で上京したため、家族に期待され必要とされる龍之介のことを疎ましく思っている。

・笹川　佳織　（ささかわ　かおり）
29歳。茶髪ロング、綺麗系美人。光宗兄弟の幼馴染。大学進学のために上京後、大手化粧品会社に就職。龍之介に好意を抱いているが刀鍛冶の修行のために相手にされず。長期の休みがあれば地元に帰って龍之介に会いに行っているが、さくらと出会い仲を深める龍之介の様子を見て焦りだす。

・光宗　貞雄　（みつむね　さだお）
82歳。光宗兄弟の祖父。刀鍛冶。光宗兄弟の父親である息子を事故でなくしたために、跡継ぎを志望した龍之介のことを溺愛している。錬太郎とは疎遠。

②物語全体のあらすじ

　春。雛形さくらは人間関係のトラブルにより地元へ帰ってきた。二年ぶりの地元。故郷の町は伝統工芸が盛んでたくさんの職人の家系が住んでいる。田舎の整備されてない道を都会で履いていたヒールのある靴で帰ってきてしまったさくらは荒い運転をする軽トラックに驚き転んでしまった。さくらが道端のぬかるみに突っ込んだところで声をかけられる。「大丈夫か？」。目の前に立ち、手を差し伸べてくれたのは偶然通りかかった地元の有名な刀鍛冶の家の次男、光宗龍之介だった。実は同じ中学校を卒業していたが学年が合わず接点のなかった二人が出会う。
　家まで送ってもらったさくらは後日龍之介の家にお礼を言いに行く.。話の流れで刀鍛冶の仕事を見学させてもらうことに。さくらは真剣な目つきで刀と向き合う龍之介の姿を見て素敵だと思い、見つめていた。見学を終え龍之介はさくらに対して「どうして地元に戻ってきたんだ？」と聞く。さくらは都会であった出来事を思い出し顔を曇らせ涙目になってしまう。それに気づいた龍之介はどうしていいか分からず、さくらを元気づけようと何故か自身のお気に入りの刀を蔵から持ち出しさくらに一生懸命魅力を伝え始めた。最初は訳が分からず龍之介の話を聞いていたさくらも、龍之介が不器用ながらも自分を慰めようとしてくれていることに気づき笑顔になる。その笑顔を見た龍之介は初めて恋に落ちてしまう。楽しく談笑した後、家に戻ろうとするさくらを見て引き留めたいと思う龍之介。しかし恋愛経験がないためにどうやって引き留めればいいか分からない。引き留めたいと思う自身の初めての感情に動揺し、咄嗟に「俺の跡継ぎを生んでくれないか⁉」とさくらにお願いしてしまう。さくらは突然の龍之介のお願いを聞いた数秒後、意味を理解し顔を真っ赤にして実家へと逃げるように帰った。
　光宗家では龍之介がまだ若いとはいえ、他の職人の家系も跡継ぎを探すのに苦労している話を聞いていたため、早めに跡継ぎを探した方がいいのではないかという話になっていた。前に一度刀鍛冶になりたいと来た若者がすぐに修行に音を上げ逃げてしまった過去があったこと、そして祖父の貞雄も龍之介の子に継いで欲しいと言っていたために龍之介は結婚のことを考えるようになっていた。しかし龍之介は今まで刀と向き合い続け、恋愛のことを考えたことがなかった。龍之介は恋愛経験に乏しかったため、偶然出会ったさくらに対して突然「俺の子どもを生んでくれ」という暴走発言をしてしまったのであった。
　実家に戻り頭を抱えるさくら。龍之介の発言は言葉通りなのだろうかと混乱する。地元の人たちがストレートな物言いをするとはいえ、プロポーズを飛び越えて子どもの話をするなんて。心臓の音がいつもより速まっているのは動揺しているせいだと言い聞かせる。後日龍之介が謝罪をしたいと家にやってくる。気まずい二人。龍之介は跡継ぎ問題で悩み突拍子のないことを言ったことを謝罪した。さくらは30代が近づき焦る龍之介の気持ちに理解を示し和解する。事態が落ち着き安堵するさくらに龍之介は「結婚を前提で付き合わないか」と提案する。冗談かと思ったが刀に向き合っている時くらい真剣な目をしながら告げられ、心が揺れたさくらは「まずはデートしてみませんか？」と提案する。龍之介はそれを受け入れた。しかし田舎ゆえにデートの場所がないうえ、龍之介はデートにさくらをどこに連れて行けばいいか思いつかない。正直にどうやってデートをしたらいいか分からないと龍之介は打ち明け、お互い同じ中学だと知った二人は思い出を語りながら地元を散歩するというささやかなデートを楽しむ。
　デートを重ね仲を深めるさくらと龍之介。不器用な龍之介に代わってデートは常にさくらが計画を立てていたが、ずっと刀と向き合っていたためにどこへ連れて行っても無邪気で新鮮な反応をする龍之介を見て、純粋な人なのだと信用を深めていた。さくらも地元で働き始め、少しずつ社会へと復帰していく。夏が近づき、さくらは龍之介の方から初めて「花火大会に行こう」とデートに誘われる。龍之介の真摯な態度に心を許したさくらは都会であったトラブルを話した。取引先の営業の男性と仲良くなり交際をしていたが、実はその男性が既婚者だったのだ。さくらは知らずに不倫をしていたが職場で悪い噂が流れ仕事を続けることが困難になり退職に至ったことを龍之介に話した。龍之介は人間不信に陥ったさくらを安心させるべく、「さくらのことだけを愛する」と誓う。さくらは龍之介の言葉を信じてみたいと伝え、二人の気持ちが通じ合う。
　正式に結婚を前提に付き合い始めたさくらと龍之介。しかし龍之介に問題が起こる。仕事中もさくらのことばかり考え集中できなくなってしまったのだった。様子がおかしい龍之介に問い詰めるさくら。龍之介は正直にさくらに相談をする。さくらは自分が龍之介の傍には居ない方が良いのではないかと思い始めるが、龍之介はさくらの斜め上をいく決断をする。龍之介から「メリハリをつけるために仕事以外はさくらのことだけ見る」と力強く宣言され、意図が分からず戸惑いつつ了承してしまうさくら。すると龍之介は仕事以外の時間にさくらを求めるようになる。二人は夏を満喫しつつ着実に愛を深めていった。
　そんな中、龍之介の幼馴染である笹川佳織が都会から帰省する。龍之介が見知らぬ女と仲睦まじく歩いていたと母親から聞いた佳織はさくらを偵察する。居合わせた龍之介を「龍ちゃん」と呼び親しい仲であることをさくらにアピールする。さくらは佳織の龍之介に対しての気持ちを察するが、龍之介は佳織の気持ちに気づいていない。龍之介が佳織に対しては遠慮や気遣いをせず自然体でいるように見えてモヤモヤする。さらには龍之介の兄、錬太郎も都会から帰省する。龍之介から兄がいることを聞かされていなかったさくらは、光宗家の事情を知る佳織から煽られ落ち込む。錬太郎は龍之介から「さくらに近づくな」と言われたために、さくらに興味を示す。都会で辛い経験をしたさくらを慰め、龍之介との関係にも相談に乗り、甘い言葉で近づく錬太郎。佳織は錬太郎とさくらが隠れて仲を深めていると竜之介に告げ口をする。さくらは龍之介に錬太郎と会ったことを咎められ、言い合いに発展してしまう。錬太郎は龍之介に「俺なら刀好きの金持ちに刀を売りつけられる」と商談を持ち掛けるが、言い争いになる。言葉巧みな錬太郎に「不器用なお前が仕事と恋愛を両立できるわけがない」と説き伏せられてしまい龍之介は動揺する。龍之介は佳織からも「結婚したい」と積極的なアプローチを受け、さらにその現場をさくらに目撃されてしまう。
　さくらは佳織に抱きつかれプロポーズされる姿を見て思わず逃げ出す。暗い田舎の道をあてもなく走り転んでしまう。泣いているさくらに差し伸べられる手。「大丈夫か？」と声をかけたのは追いかけて来た龍之介だった。拒むさくらに構わず龍之介はさくらを抱えあげ、龍之介の家へと帰る。足をひねったさくらは大人しく龍之介の腕の中にいた。家に着き龍之介はさくらの傷の手当てをする。お互いに本音を話し、改めて愛し合っていることを確認する。二人は将来について一緒に真剣に向き合っていくことを誓ったのであった。