君がこの世界に居たから。
終わる夏
朝。スマホのアラームとともに僕は目覚める。目覚めると、洗面台で顔を洗うついでに髪をセットする。リビングに行くと、いつものように机の上にはトーストとコーンスープがあった。
「おはよう」
挨拶をしたのは、佐々木蒼菜。つまり、僕の母だ。母さんは、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
そう返してダイニングテーブルにあるトーストとコーンスープをいただく。
食べ終わると、制服に着替え学校へと向かう。
「おっはよー!あーおっ!」
元気よく挨拶してきたのは、長瀬紬。
高校2年生で、僕達は幼馴染と恋人である。
「おはよう、紬」
紬は、完璧な容姿と男に媚を売ったりするようなことをしない飾らない性格から男女問わず人気がある。
それに対して、僕はみんなは僕のことをイケメンと称しているが実際僕はそう思わない平凡な高校生である。
つまらなそうなイメージを持たれるが僕は幸せだった。
大好きな人が傍にいて、毎朝起きて挨拶をする。
そんな当たり前の日常は、奇跡だ。
でも、そんな僕らの当たり前で幸せな奇跡はもうすぐ終わることに僕は気付かなかったんだ。
「おう、蒼。おはよーさん」
教室に着くなり、僕の肩に腕を巻き付けてきたのは親友の瀬戸友也だ。
明るい性格で、お茶目な性格からクラスのムードメーカーだ。
「おはよ、友也」
「そーだ、今日俺数学当たる日なんだよね。すまん、おしえてくれ〜‼️」
友也は、運動神経は抜群だが学力に関しては万年ビリに近い。
記憶力があまりないせいで、復習したのかと問うと復習した!と頑張った顔で言われた。
これ以上は、と思い教えてあげることにした。
教えてあげると、嬉しそうな顔をしてお礼を言い去っていった。
友也が自分の席に戻ると、今度は紬が僕の席にやってきた。
「蒼!今日、デートしようよっ!」
「良いよ。どこが良い?」
「プラネタリウム!」
10年以上幼馴染&3年カレカノを続けているからかいつの間にか会話がテンポよく交わせるようになった。
そして、プラネタリウムは僕達の初デートの場所。
それに加え今日は、付き合って3年目。
ちゃんと、プレゼントも用意した。
とても楽しみで、放課後になるのが待ち遠しかった。
放課後、急いで荷物をまとめ紬の席に向かう。
急いでいたのは、紬も同じだったらしくもう肩にバックを掛けていた。
その様子を見ると、なぜだかわからないがフツフツと腹から笑いが込み上げてきた。
「フッ、ハハッ!ハハハッ!」
ついに、笑ってしまった。紬を見るとお腹を抱えて笑っていた。
中々笑いが収まらず、落ち着いたのは五分ほど経ってからだった。
靴箱のところに2人で行き、プラネタリウムへと向かう。
ふと、空を見上げるととてもきれいなオレンジ色に、少し紫がかった色をしていた。
「紬、空を見て」
僕が言うと、紬はこの空の光景を眺め、写真を撮りたい、と言い出した。
この夕焼けは、僕が生きてきた今までの夕焼けよりずっと綺麗だった。
まるで、空が僕らをお祝いしているかのように。
「はい、チーズ!」
カシャリとスマホのカメラの音が響いた。
「紬!やばい、時間がない!」
僕がそう言うと、紬はスマホ内にある時間を見て焦り始めた。
途中、何度もやばいやばいと言いながら僕達は走った。
そのおかげかわからないが、何とか、チケットを取っていた上映時間に間に合った。
プラネタリウムは、蟹座など夏らしい星座で息を呑むほど綺麗だった。
この光景を、僕は覚えていたい。
「いやー、綺麗だった。ありがとね、蒼」
「こちらこそ、ありがとうね」
笑い合うと、紬が何かを思い出したかのように鞄の中を探る。
もしかして、と思い僕もプレゼントを用意する。
「蒼!3年間私と付き合ってくれてありがとう!
これ、ささやかながら贈り物!」
「紬!僕こそありがとう!
僕も、プレゼントがあるんだ!」
そう言って、プレゼント交換をした。
中身を開封すると、出てきたのは小さな一つのオルゴール。
トロイメライ、と書いてある。
トロイメライと聞いて、思いついたのはロベルト・シューマンが作曲した子供の情景作品15のことだ。
「うわー、きれい」
隣で紬が嬉しそうな声を出している。
その手には、ネックレスがある。
「これって、なんの花?」
「ハーデンベルギア。花言葉は、出会えて良かった、だって」
ハーデンベルギアは、紫色をしたとてもきれいな花だ。
それを使ったネックレスを僕はプレゼントした。
アクセサリーショップで、ひと目見てこれだと確信した。
「ありがとう、蒼。一生大事にする!」
紬は、可愛らしい笑みを浮かべた。
「ねね、蒼。この曲流してみてよ。すっごくいい曲だから」
僕は、トロイメライをピアノバージョンで聴いたことはあったがオルゴールバージョンでは聞いたことがない。
早速、言葉通りオルゴールのゼンマイを巻いて曲を流すととてもきれいな音色が耳に響いた。
2人で耳を済ませ合いながらトロイメライという曲を堪能した。
聞き終えると、幸福感が僕の中に生まれていた。
「紬、ありがとうね、こんな素敵なプレゼント」
「どういたしまして!ねぇ、蒼。トロイメライってどういう意味だと思う?」
どういう、意味か…。
考えたことなかったな。
ロベルトは、ドイツ出身だからドイツ語の可能性がある。
でも、ドイツ語なんて未知の言語の一つだ。
わからず、答えを聞くとこんな答えが返ってきた。
「それはね、ドイツ語で夢という意味なんだよ」
夢。
ロベルトは、どんな思いでこの曲を作ったのだろうか。
トロイメライ、夢ー。
しばらく考えていると、もう暗くなってしまったため僕達は帰路につくことになった。
最後に、「またね」と言い合って。
夜、僕はスマホで紬が写っている写真たちを眺めた。
ソフトクリームを食べているシーン。
ボウリング場に行って紬と僕がストライクを取ったこと。
僕がゲームで上手にできている中、隣の紬は悪戦苦闘しているシーン。
一緒にご飯食べに行ったシーン。
そして、たどり着く。
今日撮った夕焼けをバックにした写真を。
そんな紬との思い出をたくさん眺めながら眠りについた。
翌日、紬からメッセージアプリを通じておはよう、と連絡が来た。
朝に紬から連絡が来ることは珍しく、寝ぼけ眼だった僕は一瞬で目が覚めた。
急いでおはようとスタンプを送ると、まるでずっとスマホを持っていたかのようにすぐに返信が来た。
「明日、デートしてくれない?」
メッセージ上でのデートの誘いはほぼ初だった。
どこ?と連絡すると最初から目的地は決まっていたみたいだった。
「ゲームセンター」
その言葉をじっと凝視した。
紬がゲームセンターに行きたいなんて、珍しいと思った。
紬は、あまり大勢のところを好まない性格だ。
だから、驚いた。
ゲームセンターは、ここ何年か僕は行っていなかったので久しぶりに行ってみようという気分になりすぐに承諾した。
夜になり、朝を迎える。
太陽の光が、カーテンを通して僕の顔に当たる。
集合場所に向かうと、紬はそこにいた。夏らしい胸元が花で彩られている白のワンピース姿。
それに、さっそくあげたハーデンベルギアのネックレスも身につけている。
とてもきれいで、しばらく見惚れていた。
「おはよう、蒼」
いつもの元気が無くてどうしたのかと聞くとなんでもないと言った。
「じゃあ、行こうか。ゲームセンターに」
こうして、僕らはゲームセンターに続く道のりを歩み始めた。
「うわぁぁぁ!ゲームセンターだ!」
ゲームセンターに着くと、紬のいつもの元気が戻ってきて僕はホッとした。悲しい顔なんて紬には似合わないから。ずっと、笑顔でいてほしいから。
その笑顔を、僕は一生かけて守りたかった。
「蒼、蒼!これ取って!」
紬の指は、難易度の高そうなクマのぬいぐるみを指していた。
僕自身、倹約家だが紬のお願いとならば取らざるを得ないだろう。
そのため、お金を奮発してぬいぐるみを取ることとなった。
クレーンゲームが苦手な僕にとって、難易度の高いぬいぐるみは難しかった。
でも、順応力が高いおかげで何回かやればコツを掴みぬいぐるみを惜しいところまで持っていくことができるようになった。
時間と、お金の都合でラスト一回に迫ったその時奇跡は起こった。
ウィィィーンと、アームが動く音が響く。
僕の喉は、緊張でカラカラに乾いていた。
最後、ぬいぐるみの位置でボタンを押したその時。
運良く取りやすいところに引っかかってそれが景品の落ちるところまで行った。
そして、ぬいぐるみは落ちた。
「や、や、やったー!蒼!すごいよ!」
紬の声に僕は我に返った。僕は、まだ放心状態だった。
紬にぬいぐるみを手渡すとぎゅっと抱きしめていた。
幸せそうな顔で愛おしい表情でぎゅっと抱きしめていた。
取ってよかった、と心からそう思えた瞬間だった。
「蒼、本当にありがとう」
紬がこちらを向くとクマが話しているように言った。
その様子に、僕は自然と笑顔になった。
「こちらこそ、喜んでもらって嬉しかったよ。ありがとうね、紬」
「うん!」
帰るときも紬はそのぬいぐるみを抱きかかえていて大切そうに持っていた。物を大事にする紬は、きっと大事にしてくれるんだろうな。
「蒼、ちょっとそこの公園で休憩、したい」
公園の名前は、森が丘公園。近所では有名な公園で、森林がたくさんあり丘もある。
その上、バスケやサッカーができたり遊具が豊富なので小さい頃紬とここでよく遊んだものだ。
久しぶりにその公園に入ると、昔のあのときのままだった。
紬も懐かしいと感じたのか頬が緩んでブランコの方をじっと見ていた。
「そういえば、紬ってブランコ漕ぐのが上手だったね」
僕がそう言うと、頷いた。
「私が蒼と二人乗りしたくて二人乗りしようよと誘ったけど、嫌だーって言って逃げ捲くってたね」
思い出したくもない過去が思い出されて、恥ずかしさのあまり顔が赤面する。
「ねぇ、久しぶりにブランコしようよ」
「賛成」
僕らは、何年か振りのブランコをした。
紬は、ブランコが上手だったあのときのままで立ち漕ぎをして高いところまで漕いでいた。
僕は、高所恐怖症が少しあるためなるべく低い位置で漕ぐ。
「ねぇ、蒼!」
風に飲み込まれないように声を張った紬の声が聞こえて返事をする。
「なーに⁉️」
「もし、一つ願いが叶うなら何が良いー?」
「生まれ変わっても、紬に出会って、一緒にいたい!」
言って気が付いた。
僕は、今ものすごい照れる発言をしたことを。
恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだった。
ふと紬を見ると、顔だけじゃなく耳まで真っ赤だった。
「じゃあ、私はその願い叶えさせてあげるよ」
紬の最後の言葉は、風にかき消され僕の耳には届かなかった。
翌朝。起きたときから何だか胸がざわざわしている。まるで、この先になにかがあるということを訴えているように。
でも、確証が得られない胸騒ぎにいつまでも付き合っている暇なんかない。いつものように、母さんが用意してくれたご飯を食べ、学校
に向かう。
いつもと、何ら変わりのない当たり前の日常がそこにはあった。当然のように紬も来て、当たり障りのない様子だった。
そして、駅が見えてきて信号待ちをしている最中のことだった。
キキィッー
急ブレーキを掛けた車が、紬の方へ突っ込んできた。僕は、紬を守るためとっさに紬を突き飛ばした。その衝撃で、紬は倒れた。
その瞬間、僕の方へと車はやってきて僕は目を瞑った。
ドンッー!
次に耳にしたのは、車が僕の体にぶつかった音だった。
いつの間にか、僕は倒れていた。
一瞬のことだった。
あぁ、
体の、血液が、失われていく気がする。
痛い、と感じない。
寒い、とも感じない。
ただ、体は温かい光に包まれていた。
あぁー、神様。
お願いします。
もう一度、紬に逢わせてくださいー。
僕は、そう思いまどろみの中で目を閉じた。
次に目が覚めると、辺り一帯は暗かった。ここは、どこだと思ってあたりを見回すと、急に一筋の光が現れた。
それと同時に、白い服装をした女性と男性が現れた。どことなく、誰かに似ている。
「あなたの願いは、何ですか?」
突然、そう聞かれた。
僕は答える。
「もう一度、紬に。長瀬紬に逢わせてください」
「その願い、叶えてやりましょう」
そう言った途端、死んだときに感じた温かい光が全身を包み込んだ。
「あなたたちは、誰ー?」
僕がそう聞くと、なぜだか僕の意識が段々と薄れていく。
最後に聞こえたのは、女性の「私はー、・・・・・・」という声と、男性の声だった。
「おはよう」
挨拶をしたのは、佐々木蒼菜。つまり、僕の母だ。母さんは、ダイニングテーブルでコーヒーを飲んでいた。
「おはよう」
そう返してダイニングテーブルにあるトーストとコーンスープをいただく。
食べ終わると、制服に着替え学校へと向かう。
「おっはよー!あーおっ!」
元気よく挨拶してきたのは、長瀬紬。
高校2年生で、僕達は幼馴染と恋人である。
「おはよう、紬」
紬は、完璧な容姿と男に媚を売ったりするようなことをしない飾らない性格から男女問わず人気がある。
それに対して、僕はみんなは僕のことをイケメンと称しているが実際僕はそう思わない平凡な高校生である。
つまらなそうなイメージを持たれるが僕は幸せだった。
大好きな人が傍にいて、毎朝起きて挨拶をする。
そんな当たり前の日常は、奇跡だ。
でも、そんな僕らの当たり前で幸せな奇跡はもうすぐ終わることに僕は気付かなかったんだ。
「おう、蒼。おはよーさん」
教室に着くなり、僕の肩に腕を巻き付けてきたのは親友の瀬戸友也だ。
明るい性格で、お茶目な性格からクラスのムードメーカーだ。
「おはよ、友也」
「そーだ、今日俺数学当たる日なんだよね。すまん、おしえてくれ〜‼️」
友也は、運動神経は抜群だが学力に関しては万年ビリに近い。
記憶力があまりないせいで、復習したのかと問うと復習した!と頑張った顔で言われた。
これ以上は、と思い教えてあげることにした。
教えてあげると、嬉しそうな顔をしてお礼を言い去っていった。
友也が自分の席に戻ると、今度は紬が僕の席にやってきた。
「蒼!今日、デートしようよっ!」
「良いよ。どこが良い?」
「プラネタリウム!」
10年以上幼馴染&3年カレカノを続けているからかいつの間にか会話がテンポよく交わせるようになった。
そして、プラネタリウムは僕達の初デートの場所。
それに加え今日は、付き合って3年目。
ちゃんと、プレゼントも用意した。
とても楽しみで、放課後になるのが待ち遠しかった。
放課後、急いで荷物をまとめ紬の席に向かう。
急いでいたのは、紬も同じだったらしくもう肩にバックを掛けていた。
その様子を見ると、なぜだかわからないがフツフツと腹から笑いが込み上げてきた。
「フッ、ハハッ!ハハハッ!」
ついに、笑ってしまった。紬を見るとお腹を抱えて笑っていた。
中々笑いが収まらず、落ち着いたのは五分ほど経ってからだった。
靴箱のところに2人で行き、プラネタリウムへと向かう。
ふと、空を見上げるととてもきれいなオレンジ色に、少し紫がかった色をしていた。
「紬、空を見て」
僕が言うと、紬はこの空の光景を眺め、写真を撮りたい、と言い出した。
この夕焼けは、僕が生きてきた今までの夕焼けよりずっと綺麗だった。
まるで、空が僕らをお祝いしているかのように。
「はい、チーズ!」
カシャリとスマホのカメラの音が響いた。
「紬!やばい、時間がない!」
僕がそう言うと、紬はスマホ内にある時間を見て焦り始めた。
途中、何度もやばいやばいと言いながら僕達は走った。
そのおかげかわからないが、何とか、チケットを取っていた上映時間に間に合った。
プラネタリウムは、蟹座など夏らしい星座で息を呑むほど綺麗だった。
この光景を、僕は覚えていたい。
「いやー、綺麗だった。ありがとね、蒼」
「こちらこそ、ありがとうね」
笑い合うと、紬が何かを思い出したかのように鞄の中を探る。
もしかして、と思い僕もプレゼントを用意する。
「蒼!3年間私と付き合ってくれてありがとう!
これ、ささやかながら贈り物!」
「紬!僕こそありがとう!
僕も、プレゼントがあるんだ!」
そう言って、プレゼント交換をした。
中身を開封すると、出てきたのは小さな一つのオルゴール。
トロイメライ、と書いてある。
トロイメライと聞いて、思いついたのはロベルト・シューマンが作曲した子供の情景作品15のことだ。
「うわー、きれい」
隣で紬が嬉しそうな声を出している。
その手には、ネックレスがある。
「これって、なんの花?」
「ハーデンベルギア。花言葉は、出会えて良かった、だって」
ハーデンベルギアは、紫色をしたとてもきれいな花だ。
それを使ったネックレスを僕はプレゼントした。
アクセサリーショップで、ひと目見てこれだと確信した。
「ありがとう、蒼。一生大事にする!」
紬は、可愛らしい笑みを浮かべた。
「ねね、蒼。この曲流してみてよ。すっごくいい曲だから」
僕は、トロイメライをピアノバージョンで聴いたことはあったがオルゴールバージョンでは聞いたことがない。
早速、言葉通りオルゴールのゼンマイを巻いて曲を流すととてもきれいな音色が耳に響いた。
2人で耳を済ませ合いながらトロイメライという曲を堪能した。
聞き終えると、幸福感が僕の中に生まれていた。
「紬、ありがとうね、こんな素敵なプレゼント」
「どういたしまして!ねぇ、蒼。トロイメライってどういう意味だと思う?」
どういう、意味か…。
考えたことなかったな。
ロベルトは、ドイツ出身だからドイツ語の可能性がある。
でも、ドイツ語なんて未知の言語の一つだ。
わからず、答えを聞くとこんな答えが返ってきた。
「それはね、ドイツ語で夢という意味なんだよ」
夢。
ロベルトは、どんな思いでこの曲を作ったのだろうか。
トロイメライ、夢ー。
しばらく考えていると、もう暗くなってしまったため僕達は帰路につくことになった。
最後に、「またね」と言い合って。
夜、僕はスマホで紬が写っている写真たちを眺めた。
ソフトクリームを食べているシーン。
ボウリング場に行って紬と僕がストライクを取ったこと。
僕がゲームで上手にできている中、隣の紬は悪戦苦闘しているシーン。
一緒にご飯食べに行ったシーン。
そして、たどり着く。
今日撮った夕焼けをバックにした写真を。
そんな紬との思い出をたくさん眺めながら眠りについた。
翌日、紬からメッセージアプリを通じておはよう、と連絡が来た。
朝に紬から連絡が来ることは珍しく、寝ぼけ眼だった僕は一瞬で目が覚めた。
急いでおはようとスタンプを送ると、まるでずっとスマホを持っていたかのようにすぐに返信が来た。
「明日、デートしてくれない?」
メッセージ上でのデートの誘いはほぼ初だった。
どこ?と連絡すると最初から目的地は決まっていたみたいだった。
「ゲームセンター」
その言葉をじっと凝視した。
紬がゲームセンターに行きたいなんて、珍しいと思った。
紬は、あまり大勢のところを好まない性格だ。
だから、驚いた。
ゲームセンターは、ここ何年か僕は行っていなかったので久しぶりに行ってみようという気分になりすぐに承諾した。
夜になり、朝を迎える。
太陽の光が、カーテンを通して僕の顔に当たる。
集合場所に向かうと、紬はそこにいた。夏らしい胸元が花で彩られている白のワンピース姿。
それに、さっそくあげたハーデンベルギアのネックレスも身につけている。
とてもきれいで、しばらく見惚れていた。
「おはよう、蒼」
いつもの元気が無くてどうしたのかと聞くとなんでもないと言った。
「じゃあ、行こうか。ゲームセンターに」
こうして、僕らはゲームセンターに続く道のりを歩み始めた。
「うわぁぁぁ!ゲームセンターだ!」
ゲームセンターに着くと、紬のいつもの元気が戻ってきて僕はホッとした。悲しい顔なんて紬には似合わないから。ずっと、笑顔でいてほしいから。
その笑顔を、僕は一生かけて守りたかった。
「蒼、蒼!これ取って!」
紬の指は、難易度の高そうなクマのぬいぐるみを指していた。
僕自身、倹約家だが紬のお願いとならば取らざるを得ないだろう。
そのため、お金を奮発してぬいぐるみを取ることとなった。
クレーンゲームが苦手な僕にとって、難易度の高いぬいぐるみは難しかった。
でも、順応力が高いおかげで何回かやればコツを掴みぬいぐるみを惜しいところまで持っていくことができるようになった。
時間と、お金の都合でラスト一回に迫ったその時奇跡は起こった。
ウィィィーンと、アームが動く音が響く。
僕の喉は、緊張でカラカラに乾いていた。
最後、ぬいぐるみの位置でボタンを押したその時。
運良く取りやすいところに引っかかってそれが景品の落ちるところまで行った。
そして、ぬいぐるみは落ちた。
「や、や、やったー!蒼!すごいよ!」
紬の声に僕は我に返った。僕は、まだ放心状態だった。
紬にぬいぐるみを手渡すとぎゅっと抱きしめていた。
幸せそうな顔で愛おしい表情でぎゅっと抱きしめていた。
取ってよかった、と心からそう思えた瞬間だった。
「蒼、本当にありがとう」
紬がこちらを向くとクマが話しているように言った。
その様子に、僕は自然と笑顔になった。
「こちらこそ、喜んでもらって嬉しかったよ。ありがとうね、紬」
「うん!」
帰るときも紬はそのぬいぐるみを抱きかかえていて大切そうに持っていた。物を大事にする紬は、きっと大事にしてくれるんだろうな。
「蒼、ちょっとそこの公園で休憩、したい」
公園の名前は、森が丘公園。近所では有名な公園で、森林がたくさんあり丘もある。
その上、バスケやサッカーができたり遊具が豊富なので小さい頃紬とここでよく遊んだものだ。
久しぶりにその公園に入ると、昔のあのときのままだった。
紬も懐かしいと感じたのか頬が緩んでブランコの方をじっと見ていた。
「そういえば、紬ってブランコ漕ぐのが上手だったね」
僕がそう言うと、頷いた。
「私が蒼と二人乗りしたくて二人乗りしようよと誘ったけど、嫌だーって言って逃げ捲くってたね」
思い出したくもない過去が思い出されて、恥ずかしさのあまり顔が赤面する。
「ねぇ、久しぶりにブランコしようよ」
「賛成」
僕らは、何年か振りのブランコをした。
紬は、ブランコが上手だったあのときのままで立ち漕ぎをして高いところまで漕いでいた。
僕は、高所恐怖症が少しあるためなるべく低い位置で漕ぐ。
「ねぇ、蒼!」
風に飲み込まれないように声を張った紬の声が聞こえて返事をする。
「なーに⁉️」
「もし、一つ願いが叶うなら何が良いー?」
「生まれ変わっても、紬に出会って、一緒にいたい!」
言って気が付いた。
僕は、今ものすごい照れる発言をしたことを。
恥ずかしさのあまり顔から火が出そうだった。
ふと紬を見ると、顔だけじゃなく耳まで真っ赤だった。
「じゃあ、私はその願い叶えさせてあげるよ」
紬の最後の言葉は、風にかき消され僕の耳には届かなかった。
翌朝。起きたときから何だか胸がざわざわしている。まるで、この先になにかがあるということを訴えているように。
でも、確証が得られない胸騒ぎにいつまでも付き合っている暇なんかない。いつものように、母さんが用意してくれたご飯を食べ、学校
に向かう。
いつもと、何ら変わりのない当たり前の日常がそこにはあった。当然のように紬も来て、当たり障りのない様子だった。
そして、駅が見えてきて信号待ちをしている最中のことだった。
キキィッー
急ブレーキを掛けた車が、紬の方へ突っ込んできた。僕は、紬を守るためとっさに紬を突き飛ばした。その衝撃で、紬は倒れた。
その瞬間、僕の方へと車はやってきて僕は目を瞑った。
ドンッー!
次に耳にしたのは、車が僕の体にぶつかった音だった。
いつの間にか、僕は倒れていた。
一瞬のことだった。
あぁ、
体の、血液が、失われていく気がする。
痛い、と感じない。
寒い、とも感じない。
ただ、体は温かい光に包まれていた。
あぁー、神様。
お願いします。
もう一度、紬に逢わせてくださいー。
僕は、そう思いまどろみの中で目を閉じた。
次に目が覚めると、辺り一帯は暗かった。ここは、どこだと思ってあたりを見回すと、急に一筋の光が現れた。
それと同時に、白い服装をした女性と男性が現れた。どことなく、誰かに似ている。
「あなたの願いは、何ですか?」
突然、そう聞かれた。
僕は答える。
「もう一度、紬に。長瀬紬に逢わせてください」
「その願い、叶えてやりましょう」
そう言った途端、死んだときに感じた温かい光が全身を包み込んだ。
「あなたたちは、誰ー?」
僕がそう聞くと、なぜだか僕の意識が段々と薄れていく。
最後に聞こえたのは、女性の「私はー、・・・・・・」という声と、男性の声だった。