君がこの世界に居たから。
49日間を、君と過ごす
「おんぎゃー、おんぎゃー」
僕の人生は、また新たに始まった。
僕は、前世の記憶ー佐々木蒼を持って生まれた青城遥へと生まれ変わった。
もしかしたら、あの女性と男性がくれたプレゼントなのかもしれない。
今年、僕は15歳になる。
紬に逢いたい。
そう思って、今日はこの町に降り立った。
ひとまず、着いてから僕は佐々木蒼のときの実家にやってきた。
西洋風の洋館のような感じの家。
何一つとして変わってない。
ピンポーンとドアチャイムを押すと、玄関から顔をのぞかせた母の姿があった。
あの時と変わっていない。
白髪もない。
皺も、なにもない。
手入れをしているのだろうか?
「どちら様、ですか?」
声も、大好きだった落ち着いた、優しい声のままだった。
「あ、あの。えっと・・・、青城と申します。お話が、あって・・・」
「あぁ、そうですか。立ち話も何ですので中へどうぞ・・・」
「失礼、します」
母さんは、不審であろう僕を家に招き入れてくれた。
優しくて、自分のことを後回しにして他人の心配をする。
誰かが、泣いていると自分も泣いちゃうほど涙もろい人だ。
でも、そんな母に育ててもらえて僕は幸せだった。
久しぶりの我が家は、何一つ変わらなかった。
家具の配置も。
仏壇。
そこに、僕の遺影はなかった。
でも、40代くらいの中年のイケオジな人の遺影があった。
僕の、父だ。
父は、僕が中学校の時、筋萎縮性側索硬化症ー通称ALSに罹り、闘病をしていたが亡くなった。
懐かしかった。
遺影を見ていると父さんの手の温かい感触、柔らかいあの微笑みがすべて蘇ってきて鼻がツンとした。
頑張って堪えていた。
しかし、等々堪えきれず泣いた。
お茶の用意をしていた母さんは、驚いた顔をしながら僕の方へと歩み寄りポケットからハンカチを出した。
花柄のレースが彩られているそのハンカチは日頃の感謝を込めて贈った僕から母の日へのプレゼントだった。
首元を見ると、誕生日プレゼントとしてあげたネックレスがあった。
溢れている。
僕と、母さんとの思い出がこの家には山程溢れていると知った。
僕がいなくなっても、形として確かにそこに残っていくものがある。
それだけでも、僕は満足だった。
落ち着き始めた頃、向かいを見ると母さんがいた。
「あのっ・・・!」
突然あげた僕の声に一瞬驚いた顔をしたが、耳を傾けてくれた。
「どうしたの?」
「ぼ、僕。佐々木、蒼さんの知り合い、なんです・・・」
蒼であることを明かそうとした口から出たのは真逆の知り合い、という言葉。
「蒼、の・・・?」
「はい。実は、昔蒼さんが転んだ僕をおんぶして家まで送ってもらったんです」
この話は、完全に僕のでっち上げだ。
でも、知り合いと言った以上は嘘を付くしかなかった。
母さん、ごめんなさい。
そう、心のなかで呟いた。
「ありがとう、蒼も喜んでいると思う・・・」
「はい、それだけでもと思い挨拶に来ました」
「そう。ありがとう」
僕は、話が終わると「ありがとうございました」と頭を下げて家を出た。
次は、紬に会おうと思った瞬間だった。
ビュンと冷たい風が吹き抜けた。
その強さに、僕は目をつぶってしまった。
「あ、お・・・?」
前から懐かしい声がして目を開けると紬がいた。
「つむ、ぎっ・・・?」
紬が僕に駆け寄って抱きしめた。
紬の体が夏なのに冷たくひんやりとしていて驚いたが紬に会えたという喜びが大きく抱きしめ返した。
「っぐぅ・・・。っぐっ・・・!」
突然の泣き声に驚くと、紬が顔をくしゃくしゃにして大泣きしていた。
「あおっ!49日間よろしくねっ!」
49、日?
突然言われたことに困惑した。
でも、今は紬に会えたという嬉しさがあった。
「あ、おっ・・・。会えて、良かった。本当に」
「僕も、会えて、良かった」
しばらく抱きしめ合い、泣き止む頃には2人で紬の家にお邪魔することになった。
小さい頃、よくお邪魔した紬の家はあまり変わっていなかった。
玄関から、ラベンダーのいい匂いがした。あまりの懐かしさに息を深く吸った。
リビングに通されると、紬が茶菓子を用意してくれた。
紅茶を一口いただいて、僕は疑問を口にした。
「ねぇ、紬。さっき言ってた49日って何?」
そう、さっき紬の口から出た49日という言葉が気がかりで仕方がなかった。
「え・・・?私、そんなこと、言った?」
困惑した顔を見せた紬を注意深く観察したが嘘ついているような顔には見えず、そのまま僕は黙ることにした。
グーギュルギュル
突然、お腹の音が部屋に響いた。
誰だ、と思ったら僕自身の音で恥ずかしさで耳まで真っ赤になっていると紬が大笑いをしていた。
笑いながら、夕飯は何が良いかと聞いていた。
「唐揚げかな」
そう言うと、了解と言って準備をし始めた。
「手伝おうか?」
「うん、お願い」
僕は、鶏肉を切る係。
紬は、味付けと揚げる担当だ。
鶏肉を切り終わると、皿を用意し食べられる準備をし始めた。
夫婦みたいだな、と思った。
5分後、いい匂いと共に唐揚げが運ばれてきた。
早速、温かいうちに食べ始めることにした。
「いただきます」
唐揚げを食べると、ジューシーな肉の旨味が口の中に広がった。
美味しかった。
お腹いっぱい食べたあとは、アイスを食べた。
バニラアイスの味も、僕らは堪能した。
食べ終わると、食休みとしてゲームをすることになった。
15年前は、悪戦苦闘していた紬は練習したらしく前より見間違えるほどうまくなっていた。
でも、やはり僕のほうが一枚上手で僕が見事勝利を収めた。
紬は、悔しがって地団駄を踏んでいてその姿に僕は笑った。
しばらくすると、紬も笑い始めた。
2人しかいない空間に笑い声だけが響き渡った。
翌朝、僕は目覚めると図書館に向かった。
生まれ変わりについて、詳しく知りたかったから。
司書さんに案内してもらい、この土地に昔住んでいた歴史ある神社の神様が書いたと言い伝えられている書物を発見した。
その神社の名前は、長瀬神社。
その名前を見た瞬間、僕は思った。
”紬と同じ苗字だ”と。
なにか関係があるのか?と思い、ページを開き続けるとこの街に伝わる言い伝えがあるそうだ。
「死ぬ直前、一つの願いを思った瞬間その願いは叶う。
例えば、〇〇に会いたいと願った場合にはその人に会う権利が与えられる。
しかし、その人に会えるのは出会ってから49日間のみだ」
49日間?
その言葉に、紬の言っていた「49日間、よろしくね」と言った。
もしかして、このことか?
そう思い、次なるページを捲ると長瀬神社の神でもある人の話が記述として残されていた。
「昔、1000年以上前のことでした。
長瀬神社の神は、ある日美しい女性に出会います。
その美しさに一目惚れした神は、話しかけることに。
その女性は、声も美しくますます神は好きになりました。
そして、彼は毎日彼女のもとへ足を運び続けました。
しかし、ある日突然悲劇は起きます。
いつものように会いに行った神は待ち合わせの場所に行きましたが、いるはずの彼女はいませんでした。
彼女が住んでいるであろうという集落に足を運ぶと遺体となって血まみれになって殺された彼女の姿がありました。
その姿にショックを受けた神様はしばらく塞ぎ込んでしまいました。
そして、15年後いつものように会えるはずのない彼女を待っていると突然冷たい風とともに彼女は現れたのです。
その姿に感動した神は、告白し彼女と2人で幸せな日々を送っていました。
しかし、49日目の朝彼女は姿を消してしまい2度も彼女を失った神様は憔悴しました。
そしてついに、神様は子孫を残し姿を消しました」
なんと悲しいお話だと思っていると、続きがあった。
「そしてのちに、神様は3度目になってようやく彼女と一緒になれました。
2人は誓います。
もし、死んだとしても生まれ変わったらあなたに会いに行くと。
ちなみに、後の書物で判明したことがありました。
神様は、神で女性は天使であることが判明しました」
下を見ると、神様の写真が載っていた。
天使は、残っていなかった。
写真、と言いつつも絵を描いたやつが残っているだけだった。
しかし、ボロボロすぎて見えなかった。
所々、見えるもののお世辞にもうまいとは言えない絵だった。
もうしょうがなく、家に帰ることにした。
家に帰ると、紬が出迎えてくれた。
「おかえり!」
「ただいま」
そう交わすと、紬が来て、といい素直に従うと部屋に招き入れ、机の上にあった古い木箱の中身を開けた。
なんだろう、と思ったので中を覗くと、図書館にあった本の中に載っていた神様のお話の書物があった。
「これ・・・」
「これはね、私のご先祖様が残したものなんだよ」
それから、紬が話し始めた。
僕が図書館で読んだ内容そのまま。
「じゃあ、紬の先祖は神様?」
まさかと思ったが、紬は首を縦に振った。
じゃあ、何だ?と思っていると、その気持がわかったのか紬が説明してくれた。
「私のご先祖様はね、あの女性だよ」
あの女性。
それは、つまり神様が一目惚れした天使のこと・・・?
じゃあ、神様は・・・?
「神様は、割と近くにいるよ。
ちなみに、天使になるには一回死なないとなれないよ」
「じゃあ、死んでない人は天使じゃない?」
「そうだよ」
僕は、そう言われると安堵の息を漏らした。
「紬が、天使じゃなくて良かった・・・」
「それはどうかな?」
紬がふと言った言葉に顔を上げると悪戯が成功した少女のように紬は笑った。
その笑顔がいつまでも僕の心に残っていた。
ずっと。
さて、と紬が腰を上げるとリビングに行きご飯の準備をし始めた。
特別に僕は書物について知りたくなり紬に許可をもらって読ませてもらうことにした。
そこには、紬に教えてもらわなかった情報や図書館にでさえなかった情報がたくさんあった。
補足として、神様についての記述もあった。
どうやら、神様も一度死んだ人間らしい。
一度死に、生まれ変わったのが神様という存在らしい。
僕はそこで違和感を覚えた。
僕は、一度死んだ身だ。
なのに、なぜ神様になっていないのだろう。
もしかして、願い事の効果だろうか・・・?
もしくは、家系の問題?
あれやこれやと考えているうちにご飯ができたらしくリビングへと降りることにした。
「蒼!今の名前ってなんなの?」
ご飯を食べている途中、紬がこんな質問を投げかけてきた。
「あぁ、遥。
青城、遥」
「へぇ〜。なんか、蒼は蒼なのに名前は蒼じゃないね。
やっぱり、生まれ変わりってすごいなぁ」
「ねぇ、紬」
「なぁに?」
「神様って誰?」
「誰だろうね」
フフッと笑って紬はハンバーグがある皿に手を伸ばした。
「ん、美味しい」
紬が美味しいと言ったので僕も食べてみるとやっぱり美味しかった。
紬の料理は、美味しい。
料理人になれるレベルだ。
しばらくすると、紬の作った人参のグラッセにも手を伸ばしてみた。
食べたことはなかったが、美味しそうな見た目をしていてどんな味か興味が湧いた。
食べてみると、バターの味がしてハンバーグにぴったりだった。
その美味しさについつい箸運びも早くなる。
この幸せが、ずっと続けばいいのに。
「紬」
「ん?」
「好きだよ」
僕の突然の告白に紬はしばらく固まっていたがふっと微笑み、ありがとうと呟いてなぜか泣いた。
泣いている途中、辛そうな悲しい紬に似合わない顔をしていた。
よく分からなかったが、胸が詰まる思いになった。
小さい頃、紬は泣いていると僕に飛びついてきていた。
訳を尋ねると、蒼の胸が一番落ち着くからと言った。
だから、僕は何も言わずそっと紬を抱きしめていた。
そのこともあり、反射的に僕の体は紬の方へ動いた。
ぎゅっと抱きしめると、紬が小声で「ありがとう」と呟いた。
紬が泣きやんだのは、思いの外すぐのことだった。
紬の目は、真っ赤に腫れていて冷やすために保冷剤とタオルを手渡すと紬はすぐに従った。
紬と再会して2日目、残り47日。
紬は、3日間寝込んだ。
紬によると、泣いた日に寝冷えしてしまったんだとか。
熱は、1日目に下がったらしいけど、ちょっと一人にさせてほしいと言っていたので一人の時間を作った。
紬が寝込んでいる間、僕は洗濯物を取り込んだりといろいろな家事をしていた。
家事をしている中でも、僕は違和感や神様のことについて色々な考えを巡らせていた。
これは、こうなのではないかともしかしたら真実かもしれないことに近づくと胸がちくりを痛む。
だから、すべてやりたいことが終わってからまた考えようと思った。
僕の人生は、また新たに始まった。
僕は、前世の記憶ー佐々木蒼を持って生まれた青城遥へと生まれ変わった。
もしかしたら、あの女性と男性がくれたプレゼントなのかもしれない。
今年、僕は15歳になる。
紬に逢いたい。
そう思って、今日はこの町に降り立った。
ひとまず、着いてから僕は佐々木蒼のときの実家にやってきた。
西洋風の洋館のような感じの家。
何一つとして変わってない。
ピンポーンとドアチャイムを押すと、玄関から顔をのぞかせた母の姿があった。
あの時と変わっていない。
白髪もない。
皺も、なにもない。
手入れをしているのだろうか?
「どちら様、ですか?」
声も、大好きだった落ち着いた、優しい声のままだった。
「あ、あの。えっと・・・、青城と申します。お話が、あって・・・」
「あぁ、そうですか。立ち話も何ですので中へどうぞ・・・」
「失礼、します」
母さんは、不審であろう僕を家に招き入れてくれた。
優しくて、自分のことを後回しにして他人の心配をする。
誰かが、泣いていると自分も泣いちゃうほど涙もろい人だ。
でも、そんな母に育ててもらえて僕は幸せだった。
久しぶりの我が家は、何一つ変わらなかった。
家具の配置も。
仏壇。
そこに、僕の遺影はなかった。
でも、40代くらいの中年のイケオジな人の遺影があった。
僕の、父だ。
父は、僕が中学校の時、筋萎縮性側索硬化症ー通称ALSに罹り、闘病をしていたが亡くなった。
懐かしかった。
遺影を見ていると父さんの手の温かい感触、柔らかいあの微笑みがすべて蘇ってきて鼻がツンとした。
頑張って堪えていた。
しかし、等々堪えきれず泣いた。
お茶の用意をしていた母さんは、驚いた顔をしながら僕の方へと歩み寄りポケットからハンカチを出した。
花柄のレースが彩られているそのハンカチは日頃の感謝を込めて贈った僕から母の日へのプレゼントだった。
首元を見ると、誕生日プレゼントとしてあげたネックレスがあった。
溢れている。
僕と、母さんとの思い出がこの家には山程溢れていると知った。
僕がいなくなっても、形として確かにそこに残っていくものがある。
それだけでも、僕は満足だった。
落ち着き始めた頃、向かいを見ると母さんがいた。
「あのっ・・・!」
突然あげた僕の声に一瞬驚いた顔をしたが、耳を傾けてくれた。
「どうしたの?」
「ぼ、僕。佐々木、蒼さんの知り合い、なんです・・・」
蒼であることを明かそうとした口から出たのは真逆の知り合い、という言葉。
「蒼、の・・・?」
「はい。実は、昔蒼さんが転んだ僕をおんぶして家まで送ってもらったんです」
この話は、完全に僕のでっち上げだ。
でも、知り合いと言った以上は嘘を付くしかなかった。
母さん、ごめんなさい。
そう、心のなかで呟いた。
「ありがとう、蒼も喜んでいると思う・・・」
「はい、それだけでもと思い挨拶に来ました」
「そう。ありがとう」
僕は、話が終わると「ありがとうございました」と頭を下げて家を出た。
次は、紬に会おうと思った瞬間だった。
ビュンと冷たい風が吹き抜けた。
その強さに、僕は目をつぶってしまった。
「あ、お・・・?」
前から懐かしい声がして目を開けると紬がいた。
「つむ、ぎっ・・・?」
紬が僕に駆け寄って抱きしめた。
紬の体が夏なのに冷たくひんやりとしていて驚いたが紬に会えたという喜びが大きく抱きしめ返した。
「っぐぅ・・・。っぐっ・・・!」
突然の泣き声に驚くと、紬が顔をくしゃくしゃにして大泣きしていた。
「あおっ!49日間よろしくねっ!」
49、日?
突然言われたことに困惑した。
でも、今は紬に会えたという嬉しさがあった。
「あ、おっ・・・。会えて、良かった。本当に」
「僕も、会えて、良かった」
しばらく抱きしめ合い、泣き止む頃には2人で紬の家にお邪魔することになった。
小さい頃、よくお邪魔した紬の家はあまり変わっていなかった。
玄関から、ラベンダーのいい匂いがした。あまりの懐かしさに息を深く吸った。
リビングに通されると、紬が茶菓子を用意してくれた。
紅茶を一口いただいて、僕は疑問を口にした。
「ねぇ、紬。さっき言ってた49日って何?」
そう、さっき紬の口から出た49日という言葉が気がかりで仕方がなかった。
「え・・・?私、そんなこと、言った?」
困惑した顔を見せた紬を注意深く観察したが嘘ついているような顔には見えず、そのまま僕は黙ることにした。
グーギュルギュル
突然、お腹の音が部屋に響いた。
誰だ、と思ったら僕自身の音で恥ずかしさで耳まで真っ赤になっていると紬が大笑いをしていた。
笑いながら、夕飯は何が良いかと聞いていた。
「唐揚げかな」
そう言うと、了解と言って準備をし始めた。
「手伝おうか?」
「うん、お願い」
僕は、鶏肉を切る係。
紬は、味付けと揚げる担当だ。
鶏肉を切り終わると、皿を用意し食べられる準備をし始めた。
夫婦みたいだな、と思った。
5分後、いい匂いと共に唐揚げが運ばれてきた。
早速、温かいうちに食べ始めることにした。
「いただきます」
唐揚げを食べると、ジューシーな肉の旨味が口の中に広がった。
美味しかった。
お腹いっぱい食べたあとは、アイスを食べた。
バニラアイスの味も、僕らは堪能した。
食べ終わると、食休みとしてゲームをすることになった。
15年前は、悪戦苦闘していた紬は練習したらしく前より見間違えるほどうまくなっていた。
でも、やはり僕のほうが一枚上手で僕が見事勝利を収めた。
紬は、悔しがって地団駄を踏んでいてその姿に僕は笑った。
しばらくすると、紬も笑い始めた。
2人しかいない空間に笑い声だけが響き渡った。
翌朝、僕は目覚めると図書館に向かった。
生まれ変わりについて、詳しく知りたかったから。
司書さんに案内してもらい、この土地に昔住んでいた歴史ある神社の神様が書いたと言い伝えられている書物を発見した。
その神社の名前は、長瀬神社。
その名前を見た瞬間、僕は思った。
”紬と同じ苗字だ”と。
なにか関係があるのか?と思い、ページを開き続けるとこの街に伝わる言い伝えがあるそうだ。
「死ぬ直前、一つの願いを思った瞬間その願いは叶う。
例えば、〇〇に会いたいと願った場合にはその人に会う権利が与えられる。
しかし、その人に会えるのは出会ってから49日間のみだ」
49日間?
その言葉に、紬の言っていた「49日間、よろしくね」と言った。
もしかして、このことか?
そう思い、次なるページを捲ると長瀬神社の神でもある人の話が記述として残されていた。
「昔、1000年以上前のことでした。
長瀬神社の神は、ある日美しい女性に出会います。
その美しさに一目惚れした神は、話しかけることに。
その女性は、声も美しくますます神は好きになりました。
そして、彼は毎日彼女のもとへ足を運び続けました。
しかし、ある日突然悲劇は起きます。
いつものように会いに行った神は待ち合わせの場所に行きましたが、いるはずの彼女はいませんでした。
彼女が住んでいるであろうという集落に足を運ぶと遺体となって血まみれになって殺された彼女の姿がありました。
その姿にショックを受けた神様はしばらく塞ぎ込んでしまいました。
そして、15年後いつものように会えるはずのない彼女を待っていると突然冷たい風とともに彼女は現れたのです。
その姿に感動した神は、告白し彼女と2人で幸せな日々を送っていました。
しかし、49日目の朝彼女は姿を消してしまい2度も彼女を失った神様は憔悴しました。
そしてついに、神様は子孫を残し姿を消しました」
なんと悲しいお話だと思っていると、続きがあった。
「そしてのちに、神様は3度目になってようやく彼女と一緒になれました。
2人は誓います。
もし、死んだとしても生まれ変わったらあなたに会いに行くと。
ちなみに、後の書物で判明したことがありました。
神様は、神で女性は天使であることが判明しました」
下を見ると、神様の写真が載っていた。
天使は、残っていなかった。
写真、と言いつつも絵を描いたやつが残っているだけだった。
しかし、ボロボロすぎて見えなかった。
所々、見えるもののお世辞にもうまいとは言えない絵だった。
もうしょうがなく、家に帰ることにした。
家に帰ると、紬が出迎えてくれた。
「おかえり!」
「ただいま」
そう交わすと、紬が来て、といい素直に従うと部屋に招き入れ、机の上にあった古い木箱の中身を開けた。
なんだろう、と思ったので中を覗くと、図書館にあった本の中に載っていた神様のお話の書物があった。
「これ・・・」
「これはね、私のご先祖様が残したものなんだよ」
それから、紬が話し始めた。
僕が図書館で読んだ内容そのまま。
「じゃあ、紬の先祖は神様?」
まさかと思ったが、紬は首を縦に振った。
じゃあ、何だ?と思っていると、その気持がわかったのか紬が説明してくれた。
「私のご先祖様はね、あの女性だよ」
あの女性。
それは、つまり神様が一目惚れした天使のこと・・・?
じゃあ、神様は・・・?
「神様は、割と近くにいるよ。
ちなみに、天使になるには一回死なないとなれないよ」
「じゃあ、死んでない人は天使じゃない?」
「そうだよ」
僕は、そう言われると安堵の息を漏らした。
「紬が、天使じゃなくて良かった・・・」
「それはどうかな?」
紬がふと言った言葉に顔を上げると悪戯が成功した少女のように紬は笑った。
その笑顔がいつまでも僕の心に残っていた。
ずっと。
さて、と紬が腰を上げるとリビングに行きご飯の準備をし始めた。
特別に僕は書物について知りたくなり紬に許可をもらって読ませてもらうことにした。
そこには、紬に教えてもらわなかった情報や図書館にでさえなかった情報がたくさんあった。
補足として、神様についての記述もあった。
どうやら、神様も一度死んだ人間らしい。
一度死に、生まれ変わったのが神様という存在らしい。
僕はそこで違和感を覚えた。
僕は、一度死んだ身だ。
なのに、なぜ神様になっていないのだろう。
もしかして、願い事の効果だろうか・・・?
もしくは、家系の問題?
あれやこれやと考えているうちにご飯ができたらしくリビングへと降りることにした。
「蒼!今の名前ってなんなの?」
ご飯を食べている途中、紬がこんな質問を投げかけてきた。
「あぁ、遥。
青城、遥」
「へぇ〜。なんか、蒼は蒼なのに名前は蒼じゃないね。
やっぱり、生まれ変わりってすごいなぁ」
「ねぇ、紬」
「なぁに?」
「神様って誰?」
「誰だろうね」
フフッと笑って紬はハンバーグがある皿に手を伸ばした。
「ん、美味しい」
紬が美味しいと言ったので僕も食べてみるとやっぱり美味しかった。
紬の料理は、美味しい。
料理人になれるレベルだ。
しばらくすると、紬の作った人参のグラッセにも手を伸ばしてみた。
食べたことはなかったが、美味しそうな見た目をしていてどんな味か興味が湧いた。
食べてみると、バターの味がしてハンバーグにぴったりだった。
その美味しさについつい箸運びも早くなる。
この幸せが、ずっと続けばいいのに。
「紬」
「ん?」
「好きだよ」
僕の突然の告白に紬はしばらく固まっていたがふっと微笑み、ありがとうと呟いてなぜか泣いた。
泣いている途中、辛そうな悲しい紬に似合わない顔をしていた。
よく分からなかったが、胸が詰まる思いになった。
小さい頃、紬は泣いていると僕に飛びついてきていた。
訳を尋ねると、蒼の胸が一番落ち着くからと言った。
だから、僕は何も言わずそっと紬を抱きしめていた。
そのこともあり、反射的に僕の体は紬の方へ動いた。
ぎゅっと抱きしめると、紬が小声で「ありがとう」と呟いた。
紬が泣きやんだのは、思いの外すぐのことだった。
紬の目は、真っ赤に腫れていて冷やすために保冷剤とタオルを手渡すと紬はすぐに従った。
紬と再会して2日目、残り47日。
紬は、3日間寝込んだ。
紬によると、泣いた日に寝冷えしてしまったんだとか。
熱は、1日目に下がったらしいけど、ちょっと一人にさせてほしいと言っていたので一人の時間を作った。
紬が寝込んでいる間、僕は洗濯物を取り込んだりといろいろな家事をしていた。
家事をしている中でも、僕は違和感や神様のことについて色々な考えを巡らせていた。
これは、こうなのではないかともしかしたら真実かもしれないことに近づくと胸がちくりを痛む。
だから、すべてやりたいことが終わってからまた考えようと思った。