トロイメライな世界の中で。〜君と過ごした29日間〜
蒼side
翌朝。
リビングに行くと、ホットコーヒーを啜る紬の姿があった。
「おはよう。昨日までごめんね」
「え、ああ、大丈夫」
僕がそう返事をすると、良かったと言って朝食を運んできた。
朝食は、ハムエッグだった。
味は、しっかりと美味しいのにどこか味気なかった。
カレンダーを見ると、今日は7月14日だった。
今日は、墓参りの日だ。
父さんのー、命日だから。
あまり、母さんと被らないほうが良いだろう。
母さんは、大体出勤前に寄る。
だから、9時以降なら被らないはずだ。
「蒼。今日、おじさんの、命日だよね?」
「ああ」
紬も父さんが生きてた頃、よくしてもらっていた。
紬も同行したいらしい。
それに了承すると、朝食を食べ終わった紬は急いで身支度をし始めた。
僕は、スマホと財布、線香、ライターを持って早速向かうことにした。
途中、花屋で百合を買うと紬が花の匂いを嗅いでいた。
「あ、ここって・・・。ああ・・・」
紬が、困惑した顔を浮かべた。
近くには、献花がある。
ここって、僕が死んだ場所・・・?
フラフラと倒れかけた紬を、必死で抱きとめると過呼吸になっていた。
「はぁ、はぁ・・・。
ごめんね、蒼・・・。
私があんなことになっていなかったら・・・。
蒼・・・」
紬は譫言のように喋った。
あんなこと・・・?
事故のこと・・・?
あれ?
今思えば、不可思議な点がいくつもある。
どういう、ことだ・・・?
いや、そんな訳ない。
考えたことを、慌てて追い払う。
そんな訳ない。そう、そんな訳ないんだ・・・。
しばらくすると、紬は落ち着いてお墓に行くことが出来た。
無理しないで、と言ったが大丈夫と言っていた。
紬の大丈夫は、大丈夫じゃないときがある。
多分、心配をかけさせたくないのだろう。
心根の美しい彼女に、改めて感心する。
「あれ・・・?紬ちゃん?」
父さんの墓に行くと、献花を持った母の姿があった。
今日は、仕事なはず。時刻を見ると、9時を過ぎていた。
「おばさん」
母さんは、紬を見た後僕に視線を移すと驚いた顔をした。
そりゃそうだ。
蒼の知り合いといったはずの僕が、知らないであろう父さんの墓にいるのだから。
「えっと、確か、青城さん?でしたっけ・・・?」
「はい」
それから、少し母さんと紬は世間話をし、一緒に墓参りをすることとなった。
墓石には、佐々木家の墓と彫られていた。
ここに、僕もいるのか・・・?
母は、父の大好物であったこしあんのおはぎを持ってきていた。
そっと、墓に置くと目を閉じて祈り始めた。
伝えたいことは、たくさんあるはずなのに僕達に気を使ってかすぐ終わらせて帰っていった。
僕は、前と同じように祈り始めた。
父さんへ
元気?
僕は、元気だよ。
至って、健康体そのもの。
僕、父さんが母さんを大事にしたように僕も紬を大事にしてみるからね。
そっと目を開けると、紬はまだ祈っていた。
邪魔しないように、そっと腰を上げ後ろを向いた。
すると、一瞬生まれ変わりのときに現れた男の人の姿があった、ような気がした。
しばらくすると、紬も祈り終わったらしく手を繋いできた。
キン、と冷えた手にはやはり慣れない。
それよりも、昨日からの違和感は何なのだろう。
モヤモヤする。
紬に相談してみようか。
いや、変なことで心配させたくないし困惑されるだろう。
なら、僕一人で悩んでいたほうがマシかも知れない。
あれやこれやと考えていたせいで、複雑な顔になっていたらしく紬が心配してきた。
「ごめんね、手冷たいよね。私のせいで・・・」
「どういう、こと・・・?」
私のせい?
引っかかることが多すぎる。
例えばそう。
・人が全くいない
・紬の体が冷たい
・紬が発した謎の言葉
・神様と天使のこと
・僕が事故にあったあの不思議な違和感
何なんだよっ!
紬は、なにも答えずただ首を振るだけだった。
なぜ、何も言ってくれないのだろうか。
何か、隠さなければいけないことがあるのだろうか。
紬が口を割るまで、待ってみようと思った。
次の日、僕はバケットリストを作ってみた。
・海に行く
・2つ目の長瀬神社に行く
・思い出に残る場所に行く
・紬に手料理を振る舞う
・謎を解明する
・事故の理由
ひとまず、これらを46日間でこなしたい。
とりあえず、すぐに出来そうなのは手料理だろうか。
早速、近くにあるスーパーに出向き食材を買うことにした。
何が良いだろうか。
肉じゃが?
ビーフシチュー?
コロッケ?
肉肉しいな。
そういえば、今日は火曜日だ。
なら、卵がセール中の日だ。
卵と言ったら、この料理だな。
こうして、僕はケチャップと卵などを買い、家に帰った。
紬が今日は用事があるみたいで出かけているのでその間に作ろう。
僕の自信作料理&紬の大好物、それはオムライスだ。
慣れた手つきで、ちゃっちゃと作り終わって皿を並べている頃、丁度良く紬が帰宅した。
美味しそうな匂いにそそられている彼女の姿が愛おしくてたまらなかった。
相変わらず、紬はご飯を美味しそうに食べた。
なぜ、そんなに美味しそうに食べるのか尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「食べられるときに、食べておきたいから」と。
意味深な発言ではあったが、正論でもあったので僕はすぐさま納得した。
「紬、明日海にいかないか?」
「海?なんで?」
海に行く提案をしたが、どうやら不審がられてしまったようだ。
しかも、明日。
僕らの住んでる県は、海はあるものの西から東に移動しなくてはならないという長距離だ。
電車だと、何時間もかかるので新幹線ならどうだろうかと言うと笑顔を向けて良いよと言った。
ご飯を食べ終わると、僕はすぐに新幹線の予約をし明日のコーディネートを考えることにした。
それらが一通り終わると、風呂が湧いたらしく入った。
「蒼!髪、乾かして?」
「良いよ」
紬の髪を触ると、サラサラしていて触っていて気持ちがいい。
ごわついてない。
それに、ラベンダーのいい匂いがする。
そんな髪を乾かすと、蒼の髪も乾かすと言うので僕は遠慮したが紬の押しに負けた。
僕の髪を乾かす紬は、幸せそうだったけれどどこか悲しそうだった。
当たり前だろうな。
残り、僕らは42日しかいられないのだから。
長いようで短い。
そんな時間だった。
海に行く当日、紬は張り切っていて服のコーディネートはいつもより力が入っていた。
早朝だからか、新幹線内も駅の構内もガランと静かでお陰で落ち着いて乗車することができた。
新幹線に乗ってしばらくは、UNOやトランプで遊んでいた。
ババ抜きでは、顔に出やすい紬が頑張ってポーカーフェイスをしていてでも隠しきれていないその表情に僕は笑った。
一通り遊んだあと、構内にあった駅弁を食べることにした。
紬は、鰻弁当。
僕は、牛肉弁当。
それぞれ、一口ずつ交換し合って食べることになり、それは美味だった。
紬の口にも合ったみたいで、また2人で笑いあった。
2人しかいないこの空間が、嬉しくてたまらなかった。
僕は、この先知ることとなるー。
なぜ、僕が神様などにならず生まれ変わり紬のもとへやってくることになったのかー。
紬の体が冷たかったわけ、そして紬が現れたときにやってきた冷たい謎の風の意味。
そして、生まれ変わる直前に出会ったあの女性と男性の正体をー。
予定よりも、少し早く僕らは海に着くことが出来た。
海は、コバルトブルー色で色鮮やかだった。
まだ、日の入りしたばかりの太陽が水面にキラキラ光っている。
だから、いつものより倍美しかった。
その綺麗さに僕らはうっとりし、紬は様々な角度から写真を撮っていた。
時々、いたずらっぽく微笑んで僕にカメラを向けて写真を撮っていた。
それのお返しで、僕も写真を撮ると、「やめてー!」と叫びながら追われ急いで逃げ回っていた。
そんな何気ない日常も楽しかった。
しばらく遊び、その後は休憩として海をひたすら眺めていた。
会話は、なかった。
でも、何か紬が話したそうにしていた。
しかし、僕は何故か怖くて聞くことが出来なかった。
そんな怖さに怖気付いてしまい、ひたすら僕は黙っていた。
「帰ろうか」
紬がそう言って立ち上がると、僕は頷き帰路につくことにした。
そこから、時間はどんどん過ぎていき残り20日となった。
今日は、2つ目の長瀬神社に行く日だった。
紬には、出かけてくると言って来た。
長瀬神社は、中国地方にあり僕はまた新幹線に乗った。
駅から徒歩20分ぐらい歩いた森林の近くに、長瀬神社はあるらしい。
マップを見て調べながら行くと案外すぐにたどり着くことが出来た。
そこには、箒を持って清掃する神主さんがいた。紬のおじいさんだろうか。
紬のおじいさんは、こちらに気がつくと目を見張ると歩み寄ってきた。
「どうしたんですかな?」
「あ、えっと。
僕、長瀬紬さんの知り合いの佐々木蒼と言うものなんです。
実は、ここに天使が祀られていると聞いたことがありまして・・・・」
「つむちゃんの?」
つむちゃん?
紬のことか?
「ええ」
「こっちにおいで」
紬のおじいさんは、フレンドリーで優しく紬と紬のお母さんにそっくりだった。
おじいさんは、そう言うと蔵に連れて行ってくれた。
「もう、つむちゃん家に渡しちゃっているから少ないんだけどねぇ。
君に特別に見せて上げる」
そう言うと、ある一冊の古事記レベルの古い書物を丁重に取り出して話し始めた。
「この世の人は、輪廻転生を繰り返している。
例えば、Aさんが死んだとしたら数年後別の人間としてBさんに生まれ変わるみたいなものじゃ。
中でも、この世界には天使と神様がおる。
天使は、我等長瀬家の限られた人間の巫女。
今は、その正体は謎に包まれているが儂らの近くにいることは間違いないじゃろうな。
お主、佐々木と言ったであろう。
ここからが重要じゃ。知っているかもしれんが、神様は、佐々木家の人だ。
だから、儂らは結ばれる運命に合ったのじゃよ。
つむちゃんー、紬から聞いておるであろう。
神様と天使の話を。
神様と天使は、輪廻の輪に乗っておる。
この年になって、お目にかかれるとはなぁ。
お主は、神様の息子じゃのう。
お主は、あれ?ま、まぁ血は繋がっていないこともないが資格は充分にあると思うぞ」
何だ?
最後の方変だったな・・・・。
でも、聞かないでオーラを出しているせいで聞けなかった。
それよりも、僕は困惑した。
神様が、佐々木家の人間?
じゃあ、あの女性は長瀬家の巫女?
じゃあ、あの男性は・・・・、
父さんだったの・・・・?
男性の正体は、父さんだった。
じゃあ、あの女性は誰だ・・・・?
顔は思い出したが、誰だか分からない。
どことなく、誰かに似ているのは確かだ。
「あの・・・・、」
「何じゃ?」
「僕、書物で死んだとき特別な人に会いたいと願うと49日間だけ会えるって読んだんですが・・・・」
「あぁ、そうじゃよ。その人に会ったら49日後にはいなくなる。そして、輪廻の輪に乗る。こういうシステムらしい。そしてな、アオくんに一つ言っておこう。ここは、現実じゃないぞ」
そう言うと、ニッと歯を見せ立ち去っていった。
僕は、呆然としているしかなかった。
ここは、現実じゃない?
僕が作り出した幻か・・・・?
全部、49日間の話も?
でも、そしたら紬のおじいさんが言ったことに不整合が生まれる。
紬に聞かなくてはならない。彼女なら、何かを知っているはずだー。
リビングに行くと、ホットコーヒーを啜る紬の姿があった。
「おはよう。昨日までごめんね」
「え、ああ、大丈夫」
僕がそう返事をすると、良かったと言って朝食を運んできた。
朝食は、ハムエッグだった。
味は、しっかりと美味しいのにどこか味気なかった。
カレンダーを見ると、今日は7月14日だった。
今日は、墓参りの日だ。
父さんのー、命日だから。
あまり、母さんと被らないほうが良いだろう。
母さんは、大体出勤前に寄る。
だから、9時以降なら被らないはずだ。
「蒼。今日、おじさんの、命日だよね?」
「ああ」
紬も父さんが生きてた頃、よくしてもらっていた。
紬も同行したいらしい。
それに了承すると、朝食を食べ終わった紬は急いで身支度をし始めた。
僕は、スマホと財布、線香、ライターを持って早速向かうことにした。
途中、花屋で百合を買うと紬が花の匂いを嗅いでいた。
「あ、ここって・・・。ああ・・・」
紬が、困惑した顔を浮かべた。
近くには、献花がある。
ここって、僕が死んだ場所・・・?
フラフラと倒れかけた紬を、必死で抱きとめると過呼吸になっていた。
「はぁ、はぁ・・・。
ごめんね、蒼・・・。
私があんなことになっていなかったら・・・。
蒼・・・」
紬は譫言のように喋った。
あんなこと・・・?
事故のこと・・・?
あれ?
今思えば、不可思議な点がいくつもある。
どういう、ことだ・・・?
いや、そんな訳ない。
考えたことを、慌てて追い払う。
そんな訳ない。そう、そんな訳ないんだ・・・。
しばらくすると、紬は落ち着いてお墓に行くことが出来た。
無理しないで、と言ったが大丈夫と言っていた。
紬の大丈夫は、大丈夫じゃないときがある。
多分、心配をかけさせたくないのだろう。
心根の美しい彼女に、改めて感心する。
「あれ・・・?紬ちゃん?」
父さんの墓に行くと、献花を持った母の姿があった。
今日は、仕事なはず。時刻を見ると、9時を過ぎていた。
「おばさん」
母さんは、紬を見た後僕に視線を移すと驚いた顔をした。
そりゃそうだ。
蒼の知り合いといったはずの僕が、知らないであろう父さんの墓にいるのだから。
「えっと、確か、青城さん?でしたっけ・・・?」
「はい」
それから、少し母さんと紬は世間話をし、一緒に墓参りをすることとなった。
墓石には、佐々木家の墓と彫られていた。
ここに、僕もいるのか・・・?
母は、父の大好物であったこしあんのおはぎを持ってきていた。
そっと、墓に置くと目を閉じて祈り始めた。
伝えたいことは、たくさんあるはずなのに僕達に気を使ってかすぐ終わらせて帰っていった。
僕は、前と同じように祈り始めた。
父さんへ
元気?
僕は、元気だよ。
至って、健康体そのもの。
僕、父さんが母さんを大事にしたように僕も紬を大事にしてみるからね。
そっと目を開けると、紬はまだ祈っていた。
邪魔しないように、そっと腰を上げ後ろを向いた。
すると、一瞬生まれ変わりのときに現れた男の人の姿があった、ような気がした。
しばらくすると、紬も祈り終わったらしく手を繋いできた。
キン、と冷えた手にはやはり慣れない。
それよりも、昨日からの違和感は何なのだろう。
モヤモヤする。
紬に相談してみようか。
いや、変なことで心配させたくないし困惑されるだろう。
なら、僕一人で悩んでいたほうがマシかも知れない。
あれやこれやと考えていたせいで、複雑な顔になっていたらしく紬が心配してきた。
「ごめんね、手冷たいよね。私のせいで・・・」
「どういう、こと・・・?」
私のせい?
引っかかることが多すぎる。
例えばそう。
・人が全くいない
・紬の体が冷たい
・紬が発した謎の言葉
・神様と天使のこと
・僕が事故にあったあの不思議な違和感
何なんだよっ!
紬は、なにも答えずただ首を振るだけだった。
なぜ、何も言ってくれないのだろうか。
何か、隠さなければいけないことがあるのだろうか。
紬が口を割るまで、待ってみようと思った。
次の日、僕はバケットリストを作ってみた。
・海に行く
・2つ目の長瀬神社に行く
・思い出に残る場所に行く
・紬に手料理を振る舞う
・謎を解明する
・事故の理由
ひとまず、これらを46日間でこなしたい。
とりあえず、すぐに出来そうなのは手料理だろうか。
早速、近くにあるスーパーに出向き食材を買うことにした。
何が良いだろうか。
肉じゃが?
ビーフシチュー?
コロッケ?
肉肉しいな。
そういえば、今日は火曜日だ。
なら、卵がセール中の日だ。
卵と言ったら、この料理だな。
こうして、僕はケチャップと卵などを買い、家に帰った。
紬が今日は用事があるみたいで出かけているのでその間に作ろう。
僕の自信作料理&紬の大好物、それはオムライスだ。
慣れた手つきで、ちゃっちゃと作り終わって皿を並べている頃、丁度良く紬が帰宅した。
美味しそうな匂いにそそられている彼女の姿が愛おしくてたまらなかった。
相変わらず、紬はご飯を美味しそうに食べた。
なぜ、そんなに美味しそうに食べるのか尋ねるとこんな答えが返ってきた。
「食べられるときに、食べておきたいから」と。
意味深な発言ではあったが、正論でもあったので僕はすぐさま納得した。
「紬、明日海にいかないか?」
「海?なんで?」
海に行く提案をしたが、どうやら不審がられてしまったようだ。
しかも、明日。
僕らの住んでる県は、海はあるものの西から東に移動しなくてはならないという長距離だ。
電車だと、何時間もかかるので新幹線ならどうだろうかと言うと笑顔を向けて良いよと言った。
ご飯を食べ終わると、僕はすぐに新幹線の予約をし明日のコーディネートを考えることにした。
それらが一通り終わると、風呂が湧いたらしく入った。
「蒼!髪、乾かして?」
「良いよ」
紬の髪を触ると、サラサラしていて触っていて気持ちがいい。
ごわついてない。
それに、ラベンダーのいい匂いがする。
そんな髪を乾かすと、蒼の髪も乾かすと言うので僕は遠慮したが紬の押しに負けた。
僕の髪を乾かす紬は、幸せそうだったけれどどこか悲しそうだった。
当たり前だろうな。
残り、僕らは42日しかいられないのだから。
長いようで短い。
そんな時間だった。
海に行く当日、紬は張り切っていて服のコーディネートはいつもより力が入っていた。
早朝だからか、新幹線内も駅の構内もガランと静かでお陰で落ち着いて乗車することができた。
新幹線に乗ってしばらくは、UNOやトランプで遊んでいた。
ババ抜きでは、顔に出やすい紬が頑張ってポーカーフェイスをしていてでも隠しきれていないその表情に僕は笑った。
一通り遊んだあと、構内にあった駅弁を食べることにした。
紬は、鰻弁当。
僕は、牛肉弁当。
それぞれ、一口ずつ交換し合って食べることになり、それは美味だった。
紬の口にも合ったみたいで、また2人で笑いあった。
2人しかいないこの空間が、嬉しくてたまらなかった。
僕は、この先知ることとなるー。
なぜ、僕が神様などにならず生まれ変わり紬のもとへやってくることになったのかー。
紬の体が冷たかったわけ、そして紬が現れたときにやってきた冷たい謎の風の意味。
そして、生まれ変わる直前に出会ったあの女性と男性の正体をー。
予定よりも、少し早く僕らは海に着くことが出来た。
海は、コバルトブルー色で色鮮やかだった。
まだ、日の入りしたばかりの太陽が水面にキラキラ光っている。
だから、いつものより倍美しかった。
その綺麗さに僕らはうっとりし、紬は様々な角度から写真を撮っていた。
時々、いたずらっぽく微笑んで僕にカメラを向けて写真を撮っていた。
それのお返しで、僕も写真を撮ると、「やめてー!」と叫びながら追われ急いで逃げ回っていた。
そんな何気ない日常も楽しかった。
しばらく遊び、その後は休憩として海をひたすら眺めていた。
会話は、なかった。
でも、何か紬が話したそうにしていた。
しかし、僕は何故か怖くて聞くことが出来なかった。
そんな怖さに怖気付いてしまい、ひたすら僕は黙っていた。
「帰ろうか」
紬がそう言って立ち上がると、僕は頷き帰路につくことにした。
そこから、時間はどんどん過ぎていき残り20日となった。
今日は、2つ目の長瀬神社に行く日だった。
紬には、出かけてくると言って来た。
長瀬神社は、中国地方にあり僕はまた新幹線に乗った。
駅から徒歩20分ぐらい歩いた森林の近くに、長瀬神社はあるらしい。
マップを見て調べながら行くと案外すぐにたどり着くことが出来た。
そこには、箒を持って清掃する神主さんがいた。紬のおじいさんだろうか。
紬のおじいさんは、こちらに気がつくと目を見張ると歩み寄ってきた。
「どうしたんですかな?」
「あ、えっと。
僕、長瀬紬さんの知り合いの佐々木蒼と言うものなんです。
実は、ここに天使が祀られていると聞いたことがありまして・・・・」
「つむちゃんの?」
つむちゃん?
紬のことか?
「ええ」
「こっちにおいで」
紬のおじいさんは、フレンドリーで優しく紬と紬のお母さんにそっくりだった。
おじいさんは、そう言うと蔵に連れて行ってくれた。
「もう、つむちゃん家に渡しちゃっているから少ないんだけどねぇ。
君に特別に見せて上げる」
そう言うと、ある一冊の古事記レベルの古い書物を丁重に取り出して話し始めた。
「この世の人は、輪廻転生を繰り返している。
例えば、Aさんが死んだとしたら数年後別の人間としてBさんに生まれ変わるみたいなものじゃ。
中でも、この世界には天使と神様がおる。
天使は、我等長瀬家の限られた人間の巫女。
今は、その正体は謎に包まれているが儂らの近くにいることは間違いないじゃろうな。
お主、佐々木と言ったであろう。
ここからが重要じゃ。知っているかもしれんが、神様は、佐々木家の人だ。
だから、儂らは結ばれる運命に合ったのじゃよ。
つむちゃんー、紬から聞いておるであろう。
神様と天使の話を。
神様と天使は、輪廻の輪に乗っておる。
この年になって、お目にかかれるとはなぁ。
お主は、神様の息子じゃのう。
お主は、あれ?ま、まぁ血は繋がっていないこともないが資格は充分にあると思うぞ」
何だ?
最後の方変だったな・・・・。
でも、聞かないでオーラを出しているせいで聞けなかった。
それよりも、僕は困惑した。
神様が、佐々木家の人間?
じゃあ、あの女性は長瀬家の巫女?
じゃあ、あの男性は・・・・、
父さんだったの・・・・?
男性の正体は、父さんだった。
じゃあ、あの女性は誰だ・・・・?
顔は思い出したが、誰だか分からない。
どことなく、誰かに似ているのは確かだ。
「あの・・・・、」
「何じゃ?」
「僕、書物で死んだとき特別な人に会いたいと願うと49日間だけ会えるって読んだんですが・・・・」
「あぁ、そうじゃよ。その人に会ったら49日後にはいなくなる。そして、輪廻の輪に乗る。こういうシステムらしい。そしてな、アオくんに一つ言っておこう。ここは、現実じゃないぞ」
そう言うと、ニッと歯を見せ立ち去っていった。
僕は、呆然としているしかなかった。
ここは、現実じゃない?
僕が作り出した幻か・・・・?
全部、49日間の話も?
でも、そしたら紬のおじいさんが言ったことに不整合が生まれる。
紬に聞かなくてはならない。彼女なら、何かを知っているはずだー。