トロイメライな世界の中で。〜君と過ごした29日間〜
トロイメライのような願い
ピ、ピ、ピ。
心電図の音が響く。
脳が段々覚醒していく。
「蒼・・・?」
ノロノロと僕に縋り付くのは、僕の大切な人だ。
でも、紬ではない。
それは、母さんだった。
「かあ、さんっ・・・・!」
泣きながらお母さんはナースコールを押すと、医者たちがやってきた。
僕の体をくまなく検査をして、異常がないことを認めるとすぐさま立ち去り病室には僕と母の2人だけが残った。
いるかも知れない。
居ないかもしれない。
でも。
「母さん。つむぎ、は・・・・?」
必死に声を絞り出して言うと、母さんはまた泣いた。
紬が、居ない。死んでしまったということを遠回しに伝えられているような気分だった。
そうか。
もう、紬は居ないのか。
そう思うと、また悲しみが込み上げてきた。
段々と意識がはっきりしてきた頃、母さんが紬の詳細を詳しく教えてくれた。
あの日、事故に遭いそうだった僕の身代わりとして紬が事故に遭ったそうだ。
事故に遭って、すぐ救命処置をしたから心拍数は安定したらしいが脳への損傷が激しく昏睡状態となった。
そして、事故に遭ってから数日後脳死状態になったそうだ。
紬の両親は、脳死状態へとなった娘が昔話していたという臓器提供をした。
こうして、紬の一生はここで終わってしまい、架空の世界で29日間僕と過ごしたんだ。
「ゔぅ、ああああああああああっ!」
悲しい現実に僕は泣いた。
堪えきれず、泣いた。
ごめんな、紬。僕が、身代わりになっていたらどんなに良いことだったのだろう。
そんな僕の姿に母さんはひたすら傍に居て背中を擦ってくれた。
退院の日。
「お世話になりました」
看護師さんやお医者さんに感謝の言葉を述べた。
それが終わると、母さんが運転する車に乗り家に帰ってきた。
架空の世界では、15年と29日間が過ぎていたがここではここ1ヶ月の出来事らしい。
紬との思い出が詰まったスマホを、久しぶりに見た。
見ると、悲しくなってまた泣いてしまいそうだったから。
でも、恋い焦がれた君に会いたくなった。
写真のフォルダを見ると、事故に遭う前の写真と、架空の世界で撮った、ここにはないはずの写真が残っていた。
もしかしたら、紬が遺してくれたのかもしれない。
父さんと協力して・・・・。
紬の両親に会いに行こう。
今までの感謝を込めて。
「どうぞ、上がって」
久しぶりに会った紬の母さんは、やつれていた。
娘の死に憔悴しているのだろう。
当たり前だ。僕でさえ、架空の世界でたくさん泣いたのだから。
紬の家は、架空の世界と仏壇を除くすべて一緒だった。
紬の遺影は、太陽みたいにキラキラしている僕が大好きな笑顔だった。
最初に線香を上げるとその姿を紬の母さんはじっと見つめていた。
祈りが終わり、僕はおばさんに向き合った。
「今まで、ありがとう、ございましたっ・・・・!」
「蒼くん。こちらこそ、ありがとうっ・・・・!」
「あのね、紬の通学鞄に入っていたものなの。良ければ読んでくれる?」
そう言って、持ってきたのは文庫本サイズの小さなノート。
ノートの表紙には、『蒼へ』と書かれている。
架空の世界で書いた紬が遺したものだろうか。
そう思って、ページを開くと高校2年生から始まった彼女の日記だった。
2024年4月8日
今日は、高校の始業式。今年は、大好きな彼ー蒼と同じクラスになれた!去年は、違うクラスだったから嬉しいな♪
2024年7月6日
蒼と、架空の世界で会えた。嬉しかった。おじさん、ありがとう。この時間を私は大切にするね。天使じゃない、長瀬紬としての人生を歩むね。
2024年7月17日
言おう。蒼は、もう勘づいている。あの日の真実を。
最後のページになると、白い封筒が挟まっていた。
「蒼へ」
まさに、紬の字だった。
静かに開くと、彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
蒼へ
まず、ごめんなさい。あの事故に巻き込んでしまったこと。
これは、君と別れてから書いたものです。この手紙は、おじさんに頼んで送ってもらいました。
架空の世界で君と過ごせて本当に良かった。29日間という今まで過ごした時間よりずっと短いけど、君がくれた愛をしっかり感じることが出来ました。ありがとう。君がバケットリストを作って、海へ行き、たくさんの思い出が溢れています。
これから、蒼には長い人生が待っています。
そして、私も。天使になっても生まれ変わってまた君に会うことが出来ます。その時は、一番に君に会いに行くからね。
最後に、私は君に出会えてよかった。意味のある人生で良かった。
だから、君が幸せな人生を歩めることを心からそう、願っています。
長瀬紬より.
「うぅっ」
嗚咽が漏れた。
「あーおっ!」
その文面から、彼女の声が聞こえてくるような気がして心が震えた。
紬、
紬。
ありがとうー。
頭の中で、紬と最後に聴いた曲、トロイメライが流れていた。
「蒼くん。
本当に、ありがとう。
ぜひ、その日記はあなたが持ってて。
紬も、喜ぶと思うからっ・・・・」
おばさんを見ると、おばさんも涙ぐんでいた。
「はいっ・・・・!ありがとう、ございます・・・・」
そう言って、僕は外に出た。
紬が居ない世界での空は、どこまでも眩しく青く空高く。
そんな幸せな日常の写真の一枚だった。
心電図の音が響く。
脳が段々覚醒していく。
「蒼・・・?」
ノロノロと僕に縋り付くのは、僕の大切な人だ。
でも、紬ではない。
それは、母さんだった。
「かあ、さんっ・・・・!」
泣きながらお母さんはナースコールを押すと、医者たちがやってきた。
僕の体をくまなく検査をして、異常がないことを認めるとすぐさま立ち去り病室には僕と母の2人だけが残った。
いるかも知れない。
居ないかもしれない。
でも。
「母さん。つむぎ、は・・・・?」
必死に声を絞り出して言うと、母さんはまた泣いた。
紬が、居ない。死んでしまったということを遠回しに伝えられているような気分だった。
そうか。
もう、紬は居ないのか。
そう思うと、また悲しみが込み上げてきた。
段々と意識がはっきりしてきた頃、母さんが紬の詳細を詳しく教えてくれた。
あの日、事故に遭いそうだった僕の身代わりとして紬が事故に遭ったそうだ。
事故に遭って、すぐ救命処置をしたから心拍数は安定したらしいが脳への損傷が激しく昏睡状態となった。
そして、事故に遭ってから数日後脳死状態になったそうだ。
紬の両親は、脳死状態へとなった娘が昔話していたという臓器提供をした。
こうして、紬の一生はここで終わってしまい、架空の世界で29日間僕と過ごしたんだ。
「ゔぅ、ああああああああああっ!」
悲しい現実に僕は泣いた。
堪えきれず、泣いた。
ごめんな、紬。僕が、身代わりになっていたらどんなに良いことだったのだろう。
そんな僕の姿に母さんはひたすら傍に居て背中を擦ってくれた。
退院の日。
「お世話になりました」
看護師さんやお医者さんに感謝の言葉を述べた。
それが終わると、母さんが運転する車に乗り家に帰ってきた。
架空の世界では、15年と29日間が過ぎていたがここではここ1ヶ月の出来事らしい。
紬との思い出が詰まったスマホを、久しぶりに見た。
見ると、悲しくなってまた泣いてしまいそうだったから。
でも、恋い焦がれた君に会いたくなった。
写真のフォルダを見ると、事故に遭う前の写真と、架空の世界で撮った、ここにはないはずの写真が残っていた。
もしかしたら、紬が遺してくれたのかもしれない。
父さんと協力して・・・・。
紬の両親に会いに行こう。
今までの感謝を込めて。
「どうぞ、上がって」
久しぶりに会った紬の母さんは、やつれていた。
娘の死に憔悴しているのだろう。
当たり前だ。僕でさえ、架空の世界でたくさん泣いたのだから。
紬の家は、架空の世界と仏壇を除くすべて一緒だった。
紬の遺影は、太陽みたいにキラキラしている僕が大好きな笑顔だった。
最初に線香を上げるとその姿を紬の母さんはじっと見つめていた。
祈りが終わり、僕はおばさんに向き合った。
「今まで、ありがとう、ございましたっ・・・・!」
「蒼くん。こちらこそ、ありがとうっ・・・・!」
「あのね、紬の通学鞄に入っていたものなの。良ければ読んでくれる?」
そう言って、持ってきたのは文庫本サイズの小さなノート。
ノートの表紙には、『蒼へ』と書かれている。
架空の世界で書いた紬が遺したものだろうか。
そう思って、ページを開くと高校2年生から始まった彼女の日記だった。
2024年4月8日
今日は、高校の始業式。今年は、大好きな彼ー蒼と同じクラスになれた!去年は、違うクラスだったから嬉しいな♪
2024年7月6日
蒼と、架空の世界で会えた。嬉しかった。おじさん、ありがとう。この時間を私は大切にするね。天使じゃない、長瀬紬としての人生を歩むね。
2024年7月17日
言おう。蒼は、もう勘づいている。あの日の真実を。
最後のページになると、白い封筒が挟まっていた。
「蒼へ」
まさに、紬の字だった。
静かに開くと、彼女の顔が脳裏に浮かんだ。
蒼へ
まず、ごめんなさい。あの事故に巻き込んでしまったこと。
これは、君と別れてから書いたものです。この手紙は、おじさんに頼んで送ってもらいました。
架空の世界で君と過ごせて本当に良かった。29日間という今まで過ごした時間よりずっと短いけど、君がくれた愛をしっかり感じることが出来ました。ありがとう。君がバケットリストを作って、海へ行き、たくさんの思い出が溢れています。
これから、蒼には長い人生が待っています。
そして、私も。天使になっても生まれ変わってまた君に会うことが出来ます。その時は、一番に君に会いに行くからね。
最後に、私は君に出会えてよかった。意味のある人生で良かった。
だから、君が幸せな人生を歩めることを心からそう、願っています。
長瀬紬より.
「うぅっ」
嗚咽が漏れた。
「あーおっ!」
その文面から、彼女の声が聞こえてくるような気がして心が震えた。
紬、
紬。
ありがとうー。
頭の中で、紬と最後に聴いた曲、トロイメライが流れていた。
「蒼くん。
本当に、ありがとう。
ぜひ、その日記はあなたが持ってて。
紬も、喜ぶと思うからっ・・・・」
おばさんを見ると、おばさんも涙ぐんでいた。
「はいっ・・・・!ありがとう、ございます・・・・」
そう言って、僕は外に出た。
紬が居ない世界での空は、どこまでも眩しく青く空高く。
そんな幸せな日常の写真の一枚だった。