はわわって言えばなんとかなると思ってた~拗らせ次期宰相からの執愛はウザい!~

9.思い出の君は

 私のその回答を聞いて混乱したように首を傾げながら『だったら尚更戻るべきだ』と言ったその男の子の隣にしゃがみ、じっと目の前で咲く薔薇を見つめる。その花は幼い私の顔と同じくらいの大輪の薔薇だった。
『この薔薇を貴方とみる機会なんてもうないじゃない』
 そう言葉を重ねると、瞳を前髪で隠したその男の子の頬がじわりと赤くなったことを思い出す。あの夜会の日に見たリチャードそのものだった。

「あの男の子が、まさか?」
「やっと気付いてくれたんだ」
「気付くわけないでしょ!? だって前髪で顔が……」
 隠れていた、と言おうとして、彼があの夜会の日も前髪で顔を隠していたことを思い出す。まさか私に気付いて欲しくてずっと顔を隠していたのだろうか。
「……あのね、アピールという言葉はご存じない?」
「知ってるよ、だからトレイシーだけにアピールしてたんだ」
(存在感まで消されてどうやって気付けってのよ!)
 思わずそんな文句が口から溢れそうになるが、寸前で堪える。あの小さな少年がリチャードだったのなら、彼からは積極的にアピールできなくても仕方ないだろう。
「私が、自分に釣り合う相手がいいって言ったからね」
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