はわわって言えばなんとかなると思ってた~拗らせ次期宰相からの執愛はウザい!~
 あの幼い日、私は王太子殿下と自分の身分が釣り合っていないことを理解し、更には重荷だと言ったからだ。

「トレイシーなら王太子妃だって器用にこなしたと思うけどね」
「それはどうかしら」
「一応未来の側近としてあの選定会に参加していたんだけど、あの頃の俺は一人息子という重荷に苦しんでいてね」
 代々宰相を担う侯爵家。侯爵家の子供がもしふたりいたならば、宰相という仕事と侯爵という仕事をわけられたのだろうが、侯爵家には子供がひとりしか恵まれなかった。
 宰相という仕事は、親が宰相だからと勝手に世襲されるような生易しいものではない。期待されるというその重圧は、幼かった彼にはどれだけ重かったのだろう。
「自信なく揺れる目を隠したくて前髪を伸ばしてたんだ。それでも息苦しくなって、不安を抱えながら庭園へと逃げたらその場に君が現れた」
 その言葉通り、確かにあの時の少年はどこか苦しそうにうずくまっていた。だから私は彼の隣に座ったのだ。
「トレイシーの明け透けな言葉は俺の考えを変えるには十分だった」
「そんなに明け透けなことを言ったかしら」
「ははっ、子供が無理して頑張ることの無意味さを説いていたよ」
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