言葉の先にあるもの
エピソード
エピソード
2024年1月7日。浜脇康二(59歳)は熊本市内のマンションの一室で行われるオーディション会場に向かっていた。その会場はマンションの3階に設けられている。ドアのチャイムを鳴らすと、20代くらいの男性が現れた。部屋の中に案内されると、名刺を渡される。「毎朝テレビディレクター 中林悠太」と書かれていた。軽く挨拶を交わすと、奥の方にもう一人の男性がいた。同じくディレクターであろう。この番組は半年に一度放送予定の新番組だという。康二は応募動機に記した内容について語り始めた。
「20歳の頃のエピソードですが、彼女の前で統合失調症を発病した経験があります」と話し、その詳細を続けると、ディレクターたちは静かに耳を傾けていた。どうやらこの面接の様子は録画されているらしい。
面接官は淡々とした口調で質問を投げかける。
「ゲストとして乃木坂46のメンバーが相手ですが、どんな気持ちですか?」
康二は少し間を置いて答えた。
「鼻血が出ないか心配です」
この答えで笑いが起き、緊張が少しほぐれた。
「彼女の前で統合失調症を発病したのが失敗です」
話し終えると康二は自分で書いた創作作品をディレクターに紹介した。受け取るとパラパラと目を通して
「目次を見てると女性が結構登場しますね」
そして作品の公開サイトを告げると、本社に帰ってじっくり読ませてもらいますとアドレスを、聞いてきた。なにか、この瞬間。胸の内ではやったと小さくガッポーズをするのであった。時計を見るともう1時間は経過している。採用の結果は一週間先ふ
のようだ。
中林ディレクターは、康二について「芸はないが、あちこちに顔を売っている印象がある」と感じていた。その印象が脳裏に焼き付いている。康二は山梨県南アルプス市や熊本県荒尾市で行われたNHKのど自慢の予選に出場した経験があるという。この番組では、予選の模様も録画されているため、編集次第で使える可能性がある。中林ディレクターが「他に何かテレビ出演の経験はありますか」と尋ねると、康二は特にないと答えた。しかし、数年前に天気予報の画面に、市内を歩いている姿が偶然映ったことがあるらしい。中林は彼には運というものがあるのかとテレビ局の会議で伝えたのであった。
2024年1月7日。浜脇康二(59歳)は熊本市内のマンションの一室で行われるオーディション会場に向かっていた。その会場はマンションの3階に設けられている。ドアのチャイムを鳴らすと、20代くらいの男性が現れた。部屋の中に案内されると、名刺を渡される。「毎朝テレビディレクター 中林悠太」と書かれていた。軽く挨拶を交わすと、奥の方にもう一人の男性がいた。同じくディレクターであろう。この番組は半年に一度放送予定の新番組だという。康二は応募動機に記した内容について語り始めた。
「20歳の頃のエピソードですが、彼女の前で統合失調症を発病した経験があります」と話し、その詳細を続けると、ディレクターたちは静かに耳を傾けていた。どうやらこの面接の様子は録画されているらしい。
面接官は淡々とした口調で質問を投げかける。
「ゲストとして乃木坂46のメンバーが相手ですが、どんな気持ちですか?」
康二は少し間を置いて答えた。
「鼻血が出ないか心配です」
この答えで笑いが起き、緊張が少しほぐれた。
「彼女の前で統合失調症を発病したのが失敗です」
話し終えると康二は自分で書いた創作作品をディレクターに紹介した。受け取るとパラパラと目を通して
「目次を見てると女性が結構登場しますね」
そして作品の公開サイトを告げると、本社に帰ってじっくり読ませてもらいますとアドレスを、聞いてきた。なにか、この瞬間。胸の内ではやったと小さくガッポーズをするのであった。時計を見るともう1時間は経過している。採用の結果は一週間先ふ
のようだ。
中林ディレクターは、康二について「芸はないが、あちこちに顔を売っている印象がある」と感じていた。その印象が脳裏に焼き付いている。康二は山梨県南アルプス市や熊本県荒尾市で行われたNHKのど自慢の予選に出場した経験があるという。この番組では、予選の模様も録画されているため、編集次第で使える可能性がある。中林ディレクターが「他に何かテレビ出演の経験はありますか」と尋ねると、康二は特にないと答えた。しかし、数年前に天気予報の画面に、市内を歩いている姿が偶然映ったことがあるらしい。中林は彼には運というものがあるのかとテレビ局の会議で伝えたのであった。